アクリルアミドは、工業材料や環境保全用素材として広く用いられている一方で、近年、食を介して曝露されうる身近な有害物質として注目されている。本研究では、食を介して実際に起こりうる低濃度アクリルアミド慢性曝露の影響を明らかにすることを目的に、①小胞体ストレス応答を介した神経毒性が発現するか?②DOHaDによりどのような継世代影響を及ぼすか?に着目した計画を立案した。 本年度はCOVID-19感染症の影響による実験遅延に伴い解析途中であった上記①について、研究期間を延長し研究を進めた。ゼブラフィッシュの餌であるブラインシュリンプにアクリルアミドを取り込ませ、それをゼブラフィッシュ成魚に給餌するという、食事による曝露を忠実に再現した方法を用い、1か月間の曝露を独立に3回行った。そこから得た試料を用いて、中枢神経系器官である脳、網膜について、細胞ストレス関連遺伝子の発現変化をリアルタイムPCR法により検討した。小胞体ストレス応答関連遺伝子および小胞体ストレスと密接な関係にある酸化ストレス応答関連遺伝子、さらには炎症性サイトカインを含む炎症反応関連遺伝子について、昨年度検討した遺伝子のデータを再実験により追加し、さらにいくつかの遺伝子を新たに加えて検討を行った。その結果、やはり今回の曝露条件下では中枢神経系に有意義な細胞ストレス応答と関連する遺伝子の発現変化は見られないと結論するに至った。そこで、脳、網膜のパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリンーエオシン染色を行い、組織の変異を検討したが、いずれも明確な異常を確認することはできなかった。 なお、②については当初の研究期間内に結論に至っており、本年度に関連する実験は行っていない。
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