研究課題/領域番号 |
17K00572
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
長尾 哲二 近畿大学, 理工学部, 教授 (30351563)
|
研究分担者 |
福嶋 伸之 近畿大学, 理工学部, 准教授 (10254161)
駒田 致和 愛知医科大学, 医学部, 講師 (90523994)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 神経発生毒性 / 化学物質曝露 / ミクログリア / 大脳皮質 / 海馬歯状回 / ニューロン新生 / 免疫組織染色 / 液性因子 |
研究実績の概要 |
胎児期、新生児期の脳は、脳血管関門等の保護機能が不十分であることから、多くの化学物質に曝されていることに加え、ダイナミックに変化している脳は化学物質曝露に対して感受性が高く脆弱である。ミクログリアは脳の発生・発達の様々な局面で重要な役割を果たしている。しかし化学物質曝露に起因する先天異常におけるミクログリアの関与については未だ不明な点が多い。ミクログリアの機能異常は直接、あるいは間接的に大脳皮質の神経発生・発達毒性の原因の一つである可能性がある。 そこで、まず化学物質曝露モデルマウスを用いて神経発生・発達毒性の検出を試みるために、既知の神経発生毒性物質である抗てんかん薬バルプロ酸ナトリウムをマウスの妊娠期に投与し、胎児大脳皮質におけるニューロン新生への影響、新生ニューロンの分布や層構造への影響など脳の器質的異常を胎児期、新生児期に解析した。その結果、胎児大脳皮質におけるニューロン新生の抑制と新生児大脳皮質における新生ニューロンの移動・分布の異常が観察され、このような組織形態異常が観察されたことから、その原因としてミクログリアに着目し、まずミクログリアの数や形態の異常を免疫組織染色により解析した。その結果、バルプロ酸の投与により新生児大脳皮質においてIba1陽性細胞及びアメボイド型ミクログリアの増加が認められた。ミクログリアの活性化は脳内炎症由来のサイトカイン等の液性因子によるシグナル伝達を介して行われることから、これらの因子に対して免疫組織染色とqPCRにより解析し、M1ミクログリア(神経傷害性)マーカーのCD11b陽性細胞が増加し、M2ミクログリア(神経保護性)マーカーのCD206陽性細胞が減少し、またqPCRにおいても同様の傾向を確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、既知の神経発生毒性物質のバルプロ酸を妊娠期マウスに曝露してまず化学物質曝露モデルマウス(中枢神経系傷害マウス)を作成することであったが、バルプロ酸を妊娠期に適用したマウスにおける大脳皮質の神経発生・発達毒性の形態学的検出が問題なく進み、胎児あるいは新生児の大脳皮質における組織異常が観察されたことから、次年度に予定していた形態異常の原因としてのミクログリア活性化の解析の一部を、脳内炎症由来のサイトカイン等の液性因子に対して免疫組織染色あるいはqPCRにより実施できた。 さらに既知の神経発生・発達毒性化学物質として、ビスフェノールAの胎児期から新生児期にかけての低用量曝露が海馬発生・発達に及ぼす影響とミクログリア活性についても同様に解析が進行している。また、ネオニコチノイド系農薬の妊娠期曝露あるいはヒト未熟用栄養カテーテルを用いた新生児強制経口曝露による大脳皮質及び海馬の器質的異常についても観察して知見を得ている。
|
今後の研究の推進方策 |
既知の神経発生・発達毒性化学物質で得られた脳の器質的異常を初年度と同様に解析し、とくに胎児、新生児期のニューロンの新生、分布や層構造の異常あるいは神経投射などに着目した解析を継続する。ミクログリアは細胞傷害や炎症などの有事において活性化することで免疫応答を担っており、化学物質曝露によって神経発生・発達毒性の原因となる何らかの障害が起きた場合にミクログリアがその事態の収拾を担う、あるいはミクログリアに異常が生じた場合、そのことが神経発生・発達毒性の原因となっている可能性がある。そこで脳(大脳皮質あるいは海馬)に明らかな器質的異常が観察された化学物質曝露モデルマウスを用いて、それらの原因としてミクログリアに着目し、まずミクログリアの活性について観察する。脳内炎症由来サイトカイン等の液性因子に対して免疫組織染色あるいはqPCRなどによる解析を継続して行う。 次に、化学物質曝露により引き起こされる脳内炎症を抑制することでミクログリアの異常な活性化を抑制し、神経発生・発達毒性の予防法の確立を試みる。抗炎症剤の併用曝露が脳の器質的異常など脳内炎症を軽減することによりミクログリアの異常を防ぐことに効果を示すか否か、すなわち化学物質の胎児期、新生児期など高感受期の曝露による神経発生・発達毒性の発症の予防を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度において抗体および分子生物学的検討に用いる試薬購入に充当するため、敢えて予算当初予定より節約して執行した。
|