地球温暖化が変温動物個体群の存続に及ぼす影響について、両側回遊型の淡水コエビ類をモデル生物として以下の4つの課題に取り組んだ。 1.房総半島のモデル河川における個体群動態:令和元年度の台風襲来によってモデル河川が壊滅的被害を受けたことから、令和元年度で調査を終了した。それまでの2年半にわたる月別採集調査によって、ヌマエビ類6種の個体群動態と群集構造の年変動が明らかとなった。 2.幼生の生存と発育に及ぼす水温と塩分の複合影響に関する実験的検討:令和2年度までにヌマエビ類各種幼生の飢餓耐性、幼生の生残と発育に及ぼす水温と塩分の影響を調査し、適正環境を解明した。また、令和2年度には南方系オニヌマエビ類3種幼生の生残と発育に及ぼす水温と塩分の影響についても試験し、ヌマエビ類との違いを明らかにした。 3.親エビの繁殖に及ぼす水温の影響に関する実験的検討:令和元年度に引き続きにミゾレヌマエビの繁殖に及ぼす影響を明らかにし、これまで実施したヤマトヌマエビよりも高温耐性が強いことを明らかにした。 4.比較系統地理学的手法と飼育実験による幼生の分散能力の評価:千葉県、静岡県、沖縄県石垣島から採集したヒメヌマエビのミトコンドリアDNAのCOI領域を用いた集団遺伝解析を実施した結果、メタ集団構造が検出された。既往のヌマエビ類の遺伝的集団構造、本研究による幼生の飼育実験から、各種幼生の分散能力を評価した結果、幼生の分散能力はヤマトヌマエビ、トゲナシヌマエビ、ミゾレヌマエビの順に高いものと推察された。 本研究によって、両側回遊型のヌマエビ類とオニヌマエビ類の初期生活史が解明され、温暖化の進行に伴い北方へ分布を拡大する種や個体群が縮小する方向に進む種の存在が明らかとなった。
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