研究実績の概要 |
本研究では、島根県の宍道湖を主要な調査フィールドとして、環境mRNA技術とストレス物質分析を用いて、水域における生物大量死のリスク評価、及び、予測モニタリング手法を開発することを目的として取り組んできた。そのために、宍道湖においてこれまでに大量死が確認されている水生動物(コノシロやヤマトシジミなど)を主要なモデル生物として研究を進めてきた。最終年度は、前年度までと同様に、宍道湖-中海における野外採水調査を継続して、環境中の生体高分子である“環境DNA”・“環境RNA”・“環境タンパク”用の水サンプルの集積を進めた。とくに環境DNAサンプルについては、以前のものと合わせて、4年半分以上のサンプル集積が完了した。さらに、環境RNAによって生物の健康状態を把握する手法を確立するため、-80度で冷凍保存していた約1年半分のRNA用フィルターサンプルから環境RNAの回収・濃縮・精製を実施した。また、飼育実験条件下において、対象生物の飼育水から、環境条件に応じたストレスホルモン(コルチゾール)の放出量の変化について評価する手法を確立することができた。本研究期間を通して、環境DNAサンプルの最適保管方法に関して野外調査と実験的検証を実施した論文を公表予定である(Coditional Accept, Limnology & Oceanography: Methods)。さらに、環境DNAメタバーコーディングを実施して、宍道湖-中海の魚類(+鳥類)群集の季節的変遷を網羅的に解明することにも初めて成功しており、宍道湖-中海の生物相マップを作成した。本研究期間を通して、汽水湖における生物大量死のリスク評価、及び、予測モニタリング手法を開発するために必要な環境RNA分析とストレス評価に関する基礎的技術を確立することができたと考えている。
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