前年度までの動物実験により、除菌・消臭スプレーなどに使用されている、ごく低濃度の塩化ベンザルコニウム(BZC)をミスト状にして吸入、経皮曝露させると、アレルギー性気道炎症、アトピー性皮膚炎が悪化することがわかった。本研究では、幼児期のBZC曝露が成人になってから発症したアレルギー病態に悪影響を及ぼすのかを検討する事を目的とした。若齢期のマウスにミスト状にした低濃度BZCを曝露した後、成獣期にアレルギー性気道炎症またはアトピー性皮膚炎を発症させた。 アレルギー性気道炎症モデルマウスには、4週齢から8週齢まで8回、0.01%BZCを、アトピー性皮膚炎モデルマウスには4週齢から8週齢まで12回、0.001%BZCをミスト状にして全身曝露した。BZCの濃度は、前年度までの成獣マウスを用いた検討において最も病態を悪化させた濃度を選択した。8週齢からそれぞれ、アレルギー誘発処理を行い、BZC非曝露群と病態を比較した。 その結果、アレルギー性気道炎症では、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数、アレルギー時に産生が増強されるIL-5、IL-13、エオタキシン、RANTESといった炎症性タンパクの産生量が、若齢期にBZCを曝露したマウスで有意に減少、または減少する傾向を示した。若齢期にBZCを曝露したマウスの方が高い値を示したのは、抗原特異的IgG1抗体価のみで、統計学的には有意でなかった。 アトピー性皮膚炎への影響については、皮膚症状の悪化に若齢期BZC曝露の影響は見られず、血清中の抗体量、皮膚組織中の炎症性タンパク量も、BZC非曝露群と同程度かやや低い傾向であった。 今回の研究では、若齢期のミスト状BZCの曝露は、成長後に発症したアレルギー病態を悪化させなかった。若齢期のBZC曝露により、免疫系が賦活化されたことで、成長後のアレルギー病態が緩和される可能性が考えられる。
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