研究実績の概要 |
福島第一原発事故から9年余が経過し環境放射線の減衰および除染活動によって空間線量率が低下しているが、除染が困難とされる森林地帯については対象外となっている。森林地帯に生息するアカネズミは慢性的な被ばくを受けており、異なる被ばく状況にあるため放射線影響モデル動物として有用である。本研究では、ゲノム情報が限定的であるアカネズミと遺伝的に均一なラボマウスとの比較実験を実施することで、ラボとフィールドの双方に外挿できるモデルの開発を目指した。2019年度も継続して福島県内の空間線量の異なる複数の地点と対照地域(青森県、新潟県、長野県)において、アカネズミの捕獲を行い、各種臓器のサンプリングを行った。 さらに、放射線の生殖細胞に対する遺伝的影響を解析するためにラボマウスに対して急性照射または慢性被ばくを想定した低線量率照射を行なった。7日齢のマウスに対して4 Gyを急性照射したのち、通常の飼育環境で飼育を継続した。慢性被ばくを想定した低線量率照射は、1週齢時からアクリル飼育ケージ内で母マウスと共に、4週間で総線量4 Gyになるよう照射を行った。35日齢に精巣を摘出しRNA抽出を行い、マイクロアレイ解析による遺伝子発現の変化を網羅的に調べた。2 倍以上発現量が変化した遺伝子を放射線により変化する遺伝子の候補とした。その結果、急性照射によって約25,000個の遺伝子発現が変化した(発現が増加する遺伝子 約14,000個、減少する遺伝子 約11,000個)。一方、低線量率照射では約5,000個の遺伝子発現が変化した(発現が増加する遺伝子 約3,000個、減少する遺伝子 約2,000個)。これら候補遺伝子の中には受精に関わる遺伝子における発現の変化が示唆された。
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