海鳥は海洋生態系の高次捕食者であり,食物連鎖により生体内に水銀を蓄積する.生体内に蓄積する水銀はほとんどがメチル化水銀であり,低濃度の水銀汚染でも行動の異常や繁殖への影響が知られている. 本研究では,2017年度に分析したウミネコの各器官と血中との水銀濃度の関係について解析を進めた.その結果,肝臓,腎臓,胸筋と血中との水銀濃度の間には有意な相関関係が認められた.内分泌器官である甲状腺,生殖腺,下垂体と血中との水銀濃度の間には有意な相関関係が認められたが,副腎と血中との水銀濃度には有意な相関関係はなかった.低濃度の水銀汚染の場合,水銀によるストレスホルモンへの影響は,研究間で一致した結果が得られていない.その理由として,血中水銀濃度と内分泌器官の水銀蓄積において相関関係がないことがあげられるかもしれない. 2017―2019年に水銀汚染のウミネコの繁殖への影響を調べた.雌の親鳥を抱卵期に捕獲し,血中水銀濃度を測定し,繁殖成功を測定した.また,2018と2019年には捕獲した雌親鳥の給餌行動を観察した.その結果,調査した3年間において,雌親鳥の水銀濃度と一腹卵数,孵化雛数と巣立ち雛数には有意な関係はなかった.雌親鳥の給餌回数は,血中水銀濃度が高いほど少なくなった.鳥類では,プロラクチン濃度が高い親鳥は給餌回数が多くなる関係がある.さらに,血中水銀濃度が高いほどプロラクチン濃度は低くなることがクロアシミツユビカモメで報告されている.ウミネコにおいても,血中水銀濃度の高い親鳥はプロラクチン濃度が低く,給餌回数が減った可能性がある.本研究により,低濃度水銀汚染では,ウミネコの繁殖成功には影響がないかもしれないが,繁殖行動に負の影響を与えることが明らかとなった.
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