モデル物質として選定したビスフェノールA,ベンゾピレンおよびワーファリンについて,受精後4時間のメダカ受精卵に導入して発生状況を観察し,受精後2または6日目の時点でサンプリングした.受精後2日目および6日目の時点のメダカ卵をサンプルとして次世代シークエンス解析を行い,発現変動している遺伝子群のデータを得た.これらのデータを用いてネットワーク解析を行い,モデル物質それぞれに特異的な発生異常の顕在化に関連するパスウェイの検索を行った.ビスフェノールAを導入した受精後2日目のサンプルでは代謝関連のパスウェイへの影響がみられ,受精後6日目のサンプルでは,神経(発現増加),光シグナル(発現抑制),免疫系のパスウェイに対する影響の移行があると考えられた.ワーファリンを導入したメダカ卵では,代謝系から高次機能への影響が経時的に現われることが観察された.個別の遺伝子発現への影響を見ると,エストロゲン用作用を持つことが知られているビスフェノールA導入卵では VTG3の発現量が10倍増加していた.いずれの化合物処理においてもRNA関連の遺伝子(ribosomal protein、RNA-bindingなど)が多く,KEGG_pathwayにおいてもRibosome,Spliceosomeなどが共通しており,化合物特徴的なものが少なく,ベンゾピレンで誘導されるCYP関連も検出されなかった.代謝系の影響がどのように高次機能に繋がっていく経路は明らかではないが,発生初期に影響する代謝系の違いによって,発生後期の高次機能への影響が物質依存的に変わってくる可能性が考えられる.
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