研究課題
大気エアロゾルに含まれるブラックカーボン(BC)は吸入による健康影響を引き起こし、また、気候に直接間接的に影響をおよぼすため、エアロゾルの成分の中で重要な成分である。本研究ではレーザー誘起白熱法でBCを蒸発させたのちに、電子衝撃法でイオン化し、高分解能型飛行時間型質量分析計で測定するオンライン測定装置であるスス粒子エアロゾル質量分析計(SP-AMS)を活用し、各種のBC発生源および環境中において、SP-AMSでBCの質量スペクトルを測定し、大気中BCの発生源寄与推定手法を確立することを目的とする。また、工業ナノ材料の一つである、カーボンナノチューブ(CNT)の吸入による健康影響が懸念されている。SP-AMSは、これまでにないリアルタイムかつ高感度のCNT検出法として期待されるが、大気エアロゾルに含まれるBCとCNTの識別するための手法を確立することを目的とする。一年目は多層カーボンナノチューブの測定、A重油燃焼の固定発生源、さらに、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を扱う作業現場における測定の機会を得てBCの質量スペクトルデータを取得した。また、因子分析の一種であるPositive Matrix Factorization(PMF)解析において、デフォルトである有機エアロゾルに加えてBCを含めた解析手法を会得した。この手法を作業現場における観測結果に適用し、有機エアロゾルおよびBCそれぞれの発生源寄与解析を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
測定・解析対象として、(1)ディーゼル車排気粒子、(2)ガソリン車排気粒子、(3)グラファイト炭素粒子、(4)多層カーボンナノチューブ(CNT)、(5)カーボンブラック、(6)環境粒子、(7)その他の発生源を想定した。(1-3、5、6)については、本研究ではすでに取得済みのデータを解析することとしたが、再解析する中で、過去に測定した(3)グラファイト炭素粒子のデータは、測定時の濃度が低く、有意なシグナルではなかったため、本研究課題において、再度測定を行った。(4)については、以前の研究(若手研究(A)21681004)で確立した手法を利用することとし、設備の再立ち上げを行い測定した。(7)は他の研究プロジェクトで燃焼発生源等の測定を行う場合にSP-AMSの測定も行うとした。H29年度は、A重油を燃焼させている固定発生源を測定する機会を得た。さらに、CFRPを扱う作業現場における測定の機会(基盤研究(B)26305023と連携)を2017年9月に得た。それぞれの測定の前に、SP-AMSの質量分析計のチューニング、粒径軸およびイオン化効率のキャリブレーションを行った。測定時には、SP-AMSに加えて他のBC測定装置も並行して稼働した。さらにエアロゾルを石英フィルターに捕集し、元素状炭素としての熱分離法による分析も行った。2017年5月には中国北京で行われたAMSユーザーミーティングに参加し、データ解析法およびPMF解析法の講習を受け、それらのスキルを高めた。習得したPMF解析を、炭素繊維強化プラスチックを扱う作業現場で得られたデータに適用し、有機エアロゾルおよびBCそれぞれの発生源寄与解析を行った。4つの因子に分けた場合について考察し、屋外環境由来の因子、工場内の非CFRP由来の因子、CFRPの加工時の発塵の因子、工場内の燃焼等の影響を受けた因子に分けられた。
これまで、計画通りに推進してきている。引き続き(7)のその他の測定例を増やしていき、より幅広い発生源情報を蓄積していく。またスペクトルの類似性を評価する方法を考えていきたい。質量スペクトルと共に、炭素分析による熱分離のプロファイル、光吸収性の波長依存性の情報を組み合わせて、精緻な分離を目指していく。また燃焼発生源については燃料以外にも燃焼温度や酸素濃度によっても違いがないか、質量スペクトルの違いは何に起因しているのか等、先行研究の調査や実験的に確認していきたい。
海外の研修にかかった旅費について、別予算で実施した。物品費、人件費についても別予算で支出することができたため、予定よりも初年度の支出が鈍った。使用計画としてはプロパン燃焼発生装置の修理費用やエアロゾル質量分析計の消耗品に充てたい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Atmospheric Chemistry and Physics
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エアロゾル研究
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