天然の酵素や微生物を環境浄化に利用する試みは数多いが、一般に生物分解は操作条件に敏感であり、また汚染物質との接触効率の向上が難しく、長時間の処理を要するなどの問題点がある。本研究では、これらの諸問題をバイオ技術とは別のアプローチで解決することを考え、酵素様活性を示す新規有機ホスト無機複合体を調製し、これに水中の汚染物質を濃縮した後、そのまま分解・低毒化する高効率な環境浄化システムの構築を目指した。 アルキルアンモニウム系界面活性剤分子凝集体を多孔質シリカゲル細孔内に形成させ、その細孔内に更に金属粒子を担持した有機/無機複合体について、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約で規制対象物質になっているヘキサクロロベンゼンを対象に、汚染地下水の処理を想定して検討してきた。昨年度は、研究開始当初から検討してきたFe/Ni系をFe/Cu系に変更して、未反応のヘキサクロロベンゼンが検出されなくなる程度まで分解反応を進行できたが、完全な脱塩素化には至っておらず、主生成物が2原子や3原子脱離生成物に留まっていた。今年度は、Fe/Cu系からFe/Ag系に更に変更して改善を図った。その結果、塩素原子が6原子全て脱離した生成物が検出される程度まで分解反応を進行できたが、その生成率は未だ不十分であった。なお、これまでは塩化ニッケルまたは塩化銅を塩化鉄と共に溶解した水溶液を細孔内に浸透させて金属粒子を合成してきた。しかし、Fe/Ag系では、細孔内に浸透させる前に、難溶性の塩化銀が析出してしまう問題が生じた。そこで、塩化鉄を避け、硝酸鉄と硝酸銀の水溶液から金属粒子を合成した。それに伴い、粒子合成に使用する還元剤の濃度を大幅に高くする必要があった。生成する粒子形状にも影響があったと思われ、局部電池の電位差の向上に加え、これも分解性能を改善できたことの要因として考えられる。
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