研究課題/領域番号 |
17K00609
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小木曽 真樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10356975)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 吸着 / 水処理 / 自己集積 / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、含油排水処理用の吸着剤として一定の成果を示した自己集積性の低分子有機物を実用化に繋げるため、『分散→吸着→分離→有価物の回収→再生』までの各処理操作における要素技術を抽出し、個々あるいは相互に関連させながら基礎研究を行うことで、高機能化と低コスト化を両立し、既存吸着剤を代替しうる競争力を持つ排水浄化技術を開発することを目的とするものである。 1年目は、まず浄化システム全体よりも吸着剤そのものの高機能化に注力した。最初に「分散性の向上」を目的とした基礎研究を行った。分散性を向上させるために、ポリエチレングリコール鎖等の親水基を結合することで表面物性を調整した新規の低分子有機物を合成し、分散性を向上させることに成功した。ただし、修飾前はナノチューブなどの比表面積が高い自己集積型ナノ構造体を形成していたが、修飾後はそれを維持できなかった。分散性が向上すると共に、ナノ構造を形成することで高い吸着性能を維持することが可能な両親媒性分子を更に探索中である。また、エマルションの調整法に倣い、食品添加物など低環境負荷の乳化剤や高分子を併用することで、自己集積型ナノ構造体の分散性を向上させることにも成功した。 次に「吸着力の向上」を目的とした基礎研究を行った。特に、これまで能力不足であった水溶性有機物の吸着力を向上するため、新たな低分子有機物の分子設計および合成を行った。その中で、例えば親水部のグリシルグリシンにピリジル基を導入した低分子有機物が、フェノールなどの水溶性有機物に対して高い吸着力を持つことがわかった。また、疎水部としてオレイン酸など不飽和炭化水素を導入することで、芳香族化合物や油脂に対して吸着力が向上することも分かった。これら現時点での研究結果をまとめて論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は浄化システム全体よりも吸着剤そのものの高機能化に注力した。特に「分散性の向上」および「短鎖油脂、水溶性有機物への吸着力を向上」を目的とした基礎研究を行う予定であった。「分散性の向上」を目的とした基礎研究では、ポリエチレングリコール鎖の両親媒性分子への導入や、乳化剤や高分子との併用による分散性の向上に成功した。「吸着力の向上」を目的とした基礎研究では、水溶性有機物の吸着力向上のため、親水部にピリジン基を導入することで、フェノールなどの水溶性有機物への高い吸着力を持たせることに成功した。また、オレイン酸など不飽和炭化水素を疎水部に導入することで、油脂に対しても吸着力を向上させた。おおむね当初の計画通り進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
1年目はおおむね計画通り進捗した。2年目は、浄化システム全体の低コスト化の鍵となる『有価物の回収』と『再生』に注力する計画である。特に再生は、廃棄されることが多い無機物や天然高分子、逆洗や酸・アルカリ洗浄で再生される合成高分子膜と、本研究の低分子有機物との一番大きな差異となる部分であり、技術的に最重要の課題となる。その中で、特異的吸着力の向上による油分など有価物の回収、吸着した重金属の金属資源化、一度水処理をした後の吸着剤の洗浄や再組織化等のテーマについて研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は計画通りにほぼ順調に進捗したが、翌年度を見据えて積極的に残すことにした。翌年度に実用化を念頭に置いた原料の大量製造を予定しているが、申請時より交付時に減額されていたため多少足りなくなることが見越される。次年度はそちらで合算して使用する予定である。
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