研究課題/領域番号 |
17K00610
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
坂上 伸生 茨城大学, 農学部, 准教授 (00564709)
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研究分担者 |
西澤 智康 茨城大学, 農学部, 准教授 (40722111)
郭 永 茨城大学, 農学部, 非常勤研究員 (00791451)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 土壌生成 / 植生回復 / ブナ林再生 / 耕作放棄地 / 森林皆伐 / 共生菌類 / 駒止湿原 |
研究実績の概要 |
本研究の対象地である福島県駒止湿原は,1950年代に周辺地域が開拓地として開墾された。農地開発のためのブナ林伐採は1967年から1976年まで続き,抜根・整地のためにブナ林下の有機質表層が失われた。天然記念物に指定された1970年以降,湿原の保全対策が次第に強化され,農地からの土砂流入が湿原の生態系に影響を与えていることが指摘されると,2000年までに集水域全体が天然記念物として追加指定された。開拓農地跡は裸地化したが,2000年よりブナ林復元事業が実施された。2016年現在,ススキ草地の中に成長したブナ個体を認めることができるが,ブナ二次林辺縁部には,枯死あるいは成長していないブナの個体が多い一帯がある。そこで,本研究は耕作放棄地におけるブナ林の再生を促進するため,これまであまり検討されていなかった菌根菌群集の観点を加え,ブナ林および植林地境界の植生および菌根菌群集の遷移と有機質表層の再生過程を明らかにすることを目的とした。 まずは現地調査を実施し,ブナ二次林からブナ植林地にかけてコドラートを設置した。ブナ林区,境界区および開墾跡地として区分し,コドラート内に自生する植生・土壌断面調査および天空率や深度別土壌硬度,微地形計測などの環境調査を実施した。また,土壌中の微生物群集構造の解析や,土壌コアおよびブナ実生を採取して菌根形成量や菌根型の調査を実施した。菌根形態型は66種類確認され,調査区内における土壌コア内の菌根チップ総数および出現形態型数は,ブナ林区から開墾跡地にかけて減少する傾向にあり,ブナ実生の菌根形成率も同様の傾向を示した。調査地における外生菌根菌群集の特徴は,ブナ林区・境界区におけるブナ実生のグループと開墾跡地におけるブナ実生のグループに分かれており開墾跡地ではブナ林内とは異なる菌類相であることがブナの生育の妨げになっていることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
農地開拓に伴う表土削剥の影響を受けていないブナ二次林下の2地点では,10cm以上の有機質表層が認められた(全炭素量20%以上)。そして,開拓跡地である放棄地区では,ススキの根が張る表層土壌もブナ二次林下層土に近い褐色を呈し,有機質表層の形成はほとんど認められなかった(全炭素量5%以下)。一方,ササが繁茂する境界区側の地点では,ササや他の下草の根が張る地表面から5cm程度の範囲において,比較的明度が低く全炭素量15%程度の有機質表層の分布が認められたことから,ササおよびススキの繁茂と有機質表層形成との関係について明らかとするため,各種リターの無機成分分析や埋設分解試験などを実施し,データの解析を進めている。調査することで,ブナ林再生に向けた課題を明らかになっていくと考えられた。 また,土壌コアおよびブナ実生を用いた菌根形成量や菌根型の調査に加え,ブナ実生根部において形成頻度が高いまたは低い形態型を基準に選抜した菌根片および非菌根(計156片)を用いて,洗浄法および表面殺菌を行い,根部内生菌の分離を行った。得られた分離菌株の培養菌糸からDNAを抽出し,菌種を同定した。菌根チップから抽出したDNAにより菌根形成菌種の同定を行った結果,外生菌根菌のみではなく,根部内生菌を含む系統群であるHelotiales目菌類が認められたことから,ブナ実生の生育には,共生菌類として外生菌根菌だけではなく根部内生菌も関与していることが推察された。そこで,ブナ実生根部より根部内生菌97菌株を分離し,うち83菌株を分子同定した。分離した65菌株中,33菌株がHelotiales目菌類であり,その中で21菌株がLeptodontidium属菌であった。放棄地区でも同属のL. orchidicolaが分離されたことから,調査区において,Leptodontidium属菌はブナの生育と密接に関係していることが推察された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は,耕作放棄地や災害罹災地における環境修復技術への応用が可能な基礎科学的知見を得ることである。微生物群集構造解析からは,開墾跡地ではブナ林区に比べて群集構造が単純で,菌根菌などを含む担子菌類が少なくなる傾向が認められている。今後もブナ実生の生育環境としての評価や生育阻害要因の調査を継続するとともに,菌根調査から選抜した根部内生菌Leptodontidium sp.および外生菌根菌Cenococcum geophilumを用いて,今後は現地における開墾跡地への植樹試験を展開する。選抜菌株は,液体培地で培養して菌糸懸濁液を作成し,現地において4 m×5 mの植樹区を9つ(対象区,Leptodontidium sp.区およびC. geophilum区を3反復)設置し,それぞれの区に12本のブナ稚樹を,1m以上の間隔を空けて植樹する。Leptodontidium sp.区およびC. geophilum区については,菌糸懸濁液を現地で希釈し,大型のビニール袋内でブナ稚樹の根部と接触させることで接種した後,速やかに植樹を実施する。これらの稚樹については,主幹長や葉の葉緑素含量によって生育評価を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は現地調査が中心となったため主に消耗品費において余剰が発生した。平成30年度は国際会議での発表や植樹試験における接種区毎の微生物分析を予定しており,次年度使用額と併せて計画通りに使用予定である。
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