研究課題
共生クロレラを持つ原生動物ミドリゾウリムシは、土壌結合性セシウムを土壌から解離させ、細胞内に高濃度に蓄積する能力を持つ。しかし、なぜこれらの原生動物がセシウムを蓄積するのかという生物学的な機構はわかっていない。また、生物学的に見て興味深いのは、取り込まれたセシウムがミドリゾウリムシの細胞質中にある油滴に最終的に蓄積していることである。そこで本研究では、①共生クロレラを持つ原生動物が蓄積する金属元素の種類、②金属元素の蓄積に関わる共生クロレラの関与、③油滴顆粒への金属元素の蓄積の機構とその生物学的意義、について解析し、本技術の生物学的基盤を確立することを目的とした。セシウムの蓄積を示すのは共生クロレラChlorella variabilisを細胞内に有するミドリゾウリムシのみである。そこで、2017年度においては、ミドリゾウリムシから単離した直後の共生クロレラと、ミドリゾウリムシから取り出して一年以上自由生活を行っているクロレラからmRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いた比較トランスクリプトーム解析を行った。その結果、いくつかのmRNAの発現に顕著な差異が認められた。ホストのミドリゾウリムシの遺伝子発現に関しても、栄養条件の違いを考慮して、培養日数の異なる2つのステージについて新たなトランスクリプトーム解析を実施した。これらの遺伝子データは、共生クロレラの有無と遺伝子発現の関連性を解析するのみならず、次年度以降のタンパク質レベルでの解析に用いる質量分析のレファレンスデータとしても用いる予定である。
2: おおむね順調に進展している
2017年度には、ミドリゾウリムシの細胞内から油滴顆粒を単離・精製する方法を開発し、次いで油滴に含まれるタンパク質について質量分析を行い、遺伝子を同定することを計画した。油滴顆粒の単離・精製に関しては、研究開始時に予想していたように、Percoll密度勾配遠心法により回収することに成功した。一方、質量分析に関しては、解析に必要なレファレンスデータとして、ミドリゾウリムシに含まれる共生クロレラが発現するmRNAの網羅的データベースも構築する必要があったため、2017年度はこれを重点的に実施した。クロレラからのRNAの抽出法を確立するために若干の試行錯誤が必要であったが、結果的にトランスクリプトーム解析に成功した。
本研究の今後の推進方策に関しては、申請書に記述した通り、1)ミドリゾウリムシから油滴顆粒を単離し、2) そこに含まれる脂質とタンパク質組成を質量分析法により網羅的に解析し、さらに3)同様の金属元素の取り込み現象が他のクロレラ共生原生動物(ミドリアメーバなど)でも認められるのかを検討する。また、4)油滴に含まれるタンパク質からセシウム蓄積に関与するセシウム吸着性タンパク質を探し、5)セシウムが細胞内膜系を通過する際に働いていると考えられるセシウム輸送体も探索する、という内容を順次進めていく予定である。これらの知見を合わせ、最終的には、6)ミドリゾウリムシを介するセシウムや栄養塩類の環境中での循環が存在することを証明したいと考えている。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件)
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