研究実績の概要 |
合金を中心とした素材中の元素分析法として近年注目されているレーザー誘起ブレークダウン発光分光法(Laser-Induced Breakdown Spectroscopy, LIBS)は、元素濃度のミリ秒オーダーでの高速計測を実現可能な一方で、パルスレーザーの出力安定性、周囲の雰囲気や対流の有無、およびパルスレーザー照射点における錆や汚染などによって生成するレーザープラズマの強度が経時的に大きく変化する。そこで本研究課題においてはLIBSにおいて一般的に用いられるパルス幅がナノ秒オーダーのパルスレーザー(以降レーザー1)に加えて、パルス幅がマイクロ秒オーダーのパルスレーザー(以降レーザー2)を擬同軸で照射することによりレーザープラズマ生成部の加温と表面の汚染や錆の除去を同時に行い、レーザー1によるレーザープラズマの安定生成をアシスト可能な計測システムを試作した。レーザー1レーザープラズマ生成用として波長532nmのNd:YAGレーザー(Minilite I, Continuum)を用い、水平方向から高耐力ミラーと集光レンズにて試料直上に落射した。一方でアシスト用のレーザー2にはNd:YAG基本波、波長1064nmのNd:YAGファイバーレーザー(JL-SP0226、日本レーザー)を用い、レーザー1の高耐力ミラーの直上から試料へと落射した。2種類のレーザーの照射タイミングはデジタルディレイジェネレータ(DG-8000, IWATSU)にてその照射タイミングをマイクロ秒オーダーでずらして制御し、生成したレーザープラズマ付近に光ファイバーを固定、小型分光器(LHR-UV3-7, StellarNet)へと導入した。試料には市販のアルミ合金(Al-Mg系, 5052番)を用い、1秒間の積算時間にてスペクトルの強度変化が安定に推移するのを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においてはレーザーエネルギーを十分に伝達可能な同軸光学系の試作に成功し、レーザー1も継続的に稼働できる状態にしたため、平成30年度においてはこの試作システムを用いて本格的な計測を行っていく。具体的には2次元分光器(12580型、分光計器)及びICCDカメラ(DH734T-18F, Andor)を組み合わせたイメージ分光光学系を用いて、2種類のレーザーの照射タイミングをずらした際のレーザープラズマの生成状況を時間的・空間的分布について計測する。 測定対象としてはFe, Ni, Cu, Zn, Alの純金属、及び蛍光X線分析用2元系標準試料(FXS 300シリーズ)のうち、0.5%程度の濃度域にあるSi, Mn, Ni, Cr, Mo, Al, Ti, Nb, Co, W, Vを予定している。これらは既に研究代表者が所属する研究室にてすでに所有しているものである。また、元々の表面の形状とショート/ロングパルスレーザー同軸落射後のクレーター形状及び体積をデジタルマイクロスコープ(VHX-5000, Keyence)により評価する。このクレーター及びHAZの広さ及び深さをレーザーのパルスエネルギー、2種類のレーザーの照射タイミング、反射率の異なる金属とパラメーター変化をさせながら測定することで、試料表面の性状がレーザー誘起プラズマからの発光強度に与える影響、及びロングパルス照射がその安定化に与える影響度について整理し明らかにする。
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