研究課題/領域番号 |
17K00623
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高原 茂 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (90272343)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 3D光造形材料 / 環境調和型材料 / 両性物質 / pH光制御 / ゾル / ゲル / アルギン酸ナトリウム / 点字プリント材料 |
研究実績の概要 |
本研究では,安全で環境に優しい光反応材料をめざして,酸と塩基を併せ持つ両性物質を発生する水溶性の光両性物質発生剤分子の研究を基にした光pH制御によって,天然物由来の材料を用いた環境調和型3D光造形材料の創成を目的とする。本研究グループで研究・開発した水溶性光両性物質発生剤は,光照射により塩基性から酸性へのpH変化を誘起することができる。一分子中に酸性基と塩基性基を有するアミノ酸のひとつであるタウリンなどの両性物質を発生するものや,光分解性のカチオン部分を変えたものなど本研究グループで合成した4種類の水溶性光両性物質発生剤を準備し,これらを用いて,天然物であるアルギン酸ナトリウムのゲル化を試みた。まず,これらの光両性物質発生剤の水溶液が,光照射によって,その露光エネルギ―に応じてpHの値が9から4.5程度まで変化すること,すなわち,塩基性から酸性への変化が起こることを確かめた。このpH変化を利用して多糖類の一つであるアルギン酸ナトリウムと炭酸カルシウムからなる水性の材料をゾル状から固体状のゲル状へ変化させることができた。次に研究協力者と共同で,この材料を光照射による環境調和型点字プリント材料として用いることを試みた。研究協力者が有する点字プリンターを用いて,この材料を滴下し,光によって硬化させる点字の印刷の検討を行った。点字プリント材料として用いられることを確かめたが,滴下された溶液の粘度が不十分で光照射前に基板上でやや拡がってしまうことや耐久性などのいくつかの課題も明らかにした。これによって目的とする環境調和型3D光造形材料への応用に一歩近づくことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度の計画のひとつは,光両性物質発生剤と天然物由来の材料からなる3D光造形材料の探索であった。研究・開発してきた光両性物質発生剤とさまざまな天然物由来の材料との光反応,および後続の熱反応については,多糖類のひとつであるアルギン酸系光造形材料について検討し,研究実績が得られた。本研究用のLED光源,集光系,光ファイバーを購入し,3Dプリンターに用いる材料としての光硬化反応特性を調べる実験を進めた。光源を紫外光(UV)-LED集光系としたことで大幅なコストダウンができた。一方,他の天然物由来の材料であるキトサン,セルロース,カゼイン,木質・紙系材料などと光両性物質発生剤からなる光硬化材料の探索はやや遅れている状況である。別予算において研究代表者が研究協力者であるタイ,チュラロンコン大学理学部画像印刷学科Aran准教授を訪問し研究の打ち合わせを行い,Aran准教授側からチュラロンコン大学大学院学生1名が研究代表者研究室に2か月間滞在し,研究協力を進めた。また,研究に関与する大学院生が,光両性物質発生剤の特長を生かすために,塩基性の高いオニウム系光両性物質発生剤分子の設計・合成にとりかかり,新規の光両性物質発生剤1つの合成に成功した。新規の光両性物質発生剤合成にやや手間取り,低環境負荷化合物への改良まで思ったように進んでいないが,成果が出始めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究計画は,有望な材料について環境調和型3D光造形の実証と評価を行うこと,また,プロセス設計のために,光両性物質発生剤とさまざまな天然物由来との光造形材料の光反応や後続の熱反応を探索することである。現在の進捗状況としては,有望な環境調和型3D光造形材料が必ずしも見出されているとは言えない状況である。このため,キトサン,セルロース,カゼイン,木質・紙系材料などと光両性物質発生剤からなる光硬化材料の探索を担当する学生等を増やし,実験を加速する。また,予備の計画であった感光性ポリビニルアルコールを用いた材料の検討も行う。3D光造形の実証と評価を行う造形装置の調査および改造計画を順次進めており,改造可能な3Dプリンターを複数台購入する予定である。これらの装置を用いて,まず,すでに開発したタウリンを発生する光両性物質発生剤と,アルギン酸系光造形材料やセルロース,カゼイン系光材料と組み合わせた3D造形材料を検討する。そのため,他の光両性物質発生剤を用いた材料開発に先行して,この光両性物質発生剤を十分な量合成し,3Dプリンターにおけるプロセス設計上の特性評価と課題を検討する。一方,生体への影響が少ない光両性物質発生剤のカチオン部分の分子設計,合成は時間をかけて継続して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由は,本研究用のLED光源,集光系,光ファイバーが計画時よりも大幅に価格が下がったので,1,100千円の予算を見込んだところ,300千円で購入できたためである。この未使用額は光源波長の異なるLED光源の購入や,平成30年度計画に予定される3D光造形の実証と評価を行う造形装置の購入および改造費用に重点的に加算して使用する。また,予定していた国内学会旅費を別予算から支出したことや,アジア地域では適当な国際学会参加の機会がなかったため外国旅費の支出がなかったことなどがある。今後,研究を加速させ,平成30年度の国際発表や論文投稿につとめ,旅費及びその他費用に加算して使用する。
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