天然物を主にした安全で環境に優しく,光で反応する有機材料を研究した。この材料を構成する光反応性物質として,塩基を併せ持つ「両性物質」を発生し,かつ水溶性である「光両性物質発生剤分子」の分子設計・合成研究を行った。具体的には新規なオニウム塩類を開発し,光照射によってアルカリ性から酸性へのpH変化を引き起こすことができた。アルカリ性から酸性へのpH変化によって硬化する天然物由来の材料が知られていることから,開発した光両性物質発生剤分子と組み合わせることで,環境調和型の3D光造形材料を創成することを目的とし,その基本的な実証ができた。研究期間中にいくつかの新規光両性物質発生剤分子の開発に成功し,その中から,課題であった有害物であるベンゼンを分解物として発生しない光両性物質発生剤分子を見出した。今年度は,もうひとつの課題である天然物由来の材料が紫外領域に大きな光吸収を持つ問題,すなわち,紫外領域の光によって反応する多くの光開始剤分子では材料の表面近傍でしか反応が起きないことについて解決につながる進展があった。より内部まで反応を起こさせるには,天然物由来の材料の大きな光吸収を避けて,より長波長側の近紫外から可視領域の光によって光反応を起こす必要がある。これを達成するため,食紅に使われている水溶性のピラニンと,水溶性の光酸発生剤と組みわせた水溶性光増感-開始剤システムを開発し,その近紫外光による増感反応が生じることを実証した。さらに,ベンゼンが分解物としてでない「光両性物質発生剤分子」と天然物由来のカゼインやアルギン酸などを組み合わせて,光照射によりゲル化する光反応材料を作成した。また,ピラニンと光酸発生剤と組みわせた水溶性光増感-開始剤システムを用いても硬化が進むことを示した。これらの材料を用いて光立体造形が可能であることを,液滴の積み重ねと光照射の繰り返しによる硬化実験から示した。
|