研究課題/領域番号 |
17K00633
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
砂田 香矢乃 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所, 光触媒グループ, 研究員(任期有) (20311433)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 酸化モリブデン / 抗ウイルス活性 / 可視光応答型光触媒 / 酸化チタン |
研究実績の概要 |
生活環境の中に存在する感染症リスクの低減を目指して、金属酸化物を中心に高い抗ウイルス活性をもつ材料の探索・作製を行っている。昨年度、7種の金属酸化物についてバクテリオファージを対象に抗ウイルス活性評価を行なったところ、モリブデン酸化物であるMoO3が高い抗ウイルス活性をもつことを明らかにした。本年度は、まず、実ウイルスであるインフルエンザウイルスやノロウイルス代替のネコカリシウイルスを対象にMoO3の抗ウイルス活性を調べたところ、バクテリオファージを対象とした時と同様に高い抗ウイルス活性をもつことが明らかとなった。MoO3は、抗菌性をもつことは知られていたが、高い抗ウイルス活性も示すという新たな知見が得られた。 次に、MoO3のもつ高い抗ウイルス活性を活かして、新規な可視光応答型光触媒材料が作製できないかと、酸化チタンとモリブデン酸化物を組み合わせた材料を浸漬法にて作製した。昨年度においても、同様な材料の作製を試みているが、本年度は、ベースの酸化チタンをルチル型に変えるなど作製方法を改良し、酸化チタンとモリブデン酸化物を組み合わせた材料(以下、Mo/TiO2)を作製した。バクテリオファージ、並びにインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスを対象に作製した材料の抗ウイルス活性を調べたところ、暗所下でも低い抗ウイルス活性が認められたが、1000 lxの可視光照射下では、さらにウイルス感染価が低下し、高い抗ウイルス活性が観察された。これらの結果は、Mo/TiO2が可視光応答性をもちながら、抗ウイルス活性を示すことを示唆している。 以上、本年度は、抗菌・抗ウイルス活性を示す化合物の一つとして、酸化モリブデン(MoO3)があることを見出し、その知見を活かして、新規な可視光応答型光触媒材料を作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度前半は、昨年度見出した酸化モリブデン(MoO3)の高い抗ウイルス活性を実ウイルスであるインフルエンザウイルスやネコカリシウイルスを対象に確認を行った。また、酸化モリブデンの高い抗ウイルス性を活用した可視光応答型光触媒材料を昨年度の作製方法を改良して再作製した。後半は、再作製した材料の抗ウイルス活性をバクテリオファージや実ウイルスを対象に評価を行うとともに、材料のキャラクタリゼーションを行った。 結果として、酸化モリブデンや再作製した可視光応答型光触媒材料に、高い抗ウイルス活性があることを明らかにでき、その点は、順調に研究が進んでいると言える。特に本年度の研究計画に入っていた抗ウイルス活性を示す新規の可視光応答型光触媒の作製が行えた点は大きな成果である。 しかし一方で、再作製した可視光応答型光触媒材料のキャラクタリゼーションが年度末近くになり、十分な解析が年度内に行えず、可視光応答性のメカニズムについて明らかにすることができなかった。そのため、論文にまとめることができなかった。また、本年度予定をしていた金属イオンの抗ウイルス活性評価についても、抗ウイルス活性をもつ金属イオン種を調べることはできているが、それが、金属イオンのためか、低いpHのためかについては、まだ明らかにできていない。 以上から、順調に進んでいる事項と遅れ気味な事項とがあるため、全体としては、研究は少し遅れ気味であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
高い抗ウイルス活性をもつ酸化モリブデン(MoO3)が、どのような機構で抗ウイルス活性を示すかを明らかにするために、今後は、他のモリブデン化合物(たとえば、MoO2)の抗ウイルス活性と比較することや、抗ウイルス活性はタンパク質変性により得られると考えているので、タンパク質変性の性能を評価することで、明らかにしていきたいと考えている。 次に、モリブデン酸化物と酸化チタンを組み合わせた新規の可視光応答形光触媒材料(Mo/TiO2)は、暗所下よりも白色蛍光灯照射下で、より高い抗ウイルス活性を示したが、この可視光応答性についても、まだ何も明らかとなっていない。本年度末に行った材料のキャラクタリゼーションの解析を進めながら、並びに、モリブデン酸化物と酸化チタンの量比を変化させるなど、種々の材料を作製し、より可視光応答性の高い材料を求めながら、明らかにしていきたいと考えている。
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