研究課題
2011年3月に発生した福島原発事故直後に近隣の海岸にストランディングしたハクジラ類25個体とコントロールとした北海道の1個体それぞれの筋肉中における放射性セシウム(134Csと137Cs)値を解析した。北海道の個体からは両物質とも検出されず、その他の個体からは数値にばらつきはあるものの両物質ともに検出された。この結果が示すことは、事後現場の近隣海岸ならびに神奈川県で発見された個体ですら明らかに福島原発由来の放射性物質に汚染されており、特に沿岸性のスナメリ(小型歯クジラ類)9固体は他の個体よりも明らかな高値を示した。さらに、事故直後に発見されたスナメリ個体が一番高値を示した。つまり、福島原発事故からは、沿岸域に放射性物質は確実に流出しており、沿岸性の生物たちは海洋環境における食物連鎖を介して両物質を生物濃縮し、高位のスナメリにおいて、高値を示したことが明確となった。また、放射性物質の影響を比較的受けやすい臓器である甲状腺を病理学的に、精巣をEPMA法によりそれぞれ調べたが、現時点では関連する直接的な影響変化は認められなかった。しかし、137Csは半減期が30年と長期であるため、今後甲状腺や精巣を含めた内臓への変化も検出されるのかもしれない。2019年12月にはスペイン・バルセロナにおいて、2年に1度開催される世界海棲哺乳類学会(WMMC19)で本成果を発表したが、非常に高い評価を得た。年度末にはCOVD-19の影響により顕微鏡による実務的作業が実施できなかったが、これらの成果を論文化し、公表する準備を現在も進めている。
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