研究課題/領域番号 |
17K00643
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
笠原 里恵 弘前大学, 農学生命科学部, 研究機関研究員 (80791821)
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研究分担者 |
北村 亘 東京都市大学, 環境学部, 准教授 (30709861)
森本 元 公益財団法人山階鳥類研究所, 自然誌研究室, 研究員 (60468717)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 渡り経路 / 渡り鳥 / コチドリ / シロチドリ / GPS / 砂礫地 |
研究実績の概要 |
河川の砂礫地では、樹林化の進行によって全国的に砂礫地が減少傾向にあり、そこで繁殖する鳥類の個体数の減少や、渡り鳥における中継地の消失もしくは質の低下が懸念される。とりわけ、砂礫地を利用する渡り鳥の保全のためには、渡りの経路を考慮した水辺環境管理が重要となる。本研究では、砂礫地で繁殖する渡り鳥のコチドリとシロチドリを対象に、渡り経路を解明することを目的として、関東及び甲信越地方で繁殖個体を捕獲し、GPSを装着する。GPS内に蓄積されたデータを得るには翌年以降に再捕獲してGPSを回収する必要がある。 研究は3年計画であり、平成29年度と30年度の2年間で繁殖個体の捕獲とGPSの装着を行い、平成30年と31年の2年間で装着個体の再捕獲とGPS回収およびデータの解析を行う。 平成29年度にGPSを装着したコチドリ19個体、シロチドリ7個体のうち、平成30年度は、コチドリ6個体とシロチドリ1個体からGPSを回収することが出来た。加えて、新たにコチドリ19個体、シロチドリ2個体の計21個体にGPSを装着することができた。回収GPSデータから、シロチドリの越冬場所と思われる地域が明らかになった。またコチドリでは、渡り時期や越冬時期に利用する環境が繁殖時期とは異なること、複数の中継地を経由しながら越冬地に向かうこと、またアジアの個体群では知見が少なかった重要な中継地や越冬地と思われる地域と環境が明らかになってきた。これらの結果については、新潟大学で開催された日本鳥学会2018年度大会や台湾で開催された第9回ICLEEで口頭発表を行い、国内だけではなく、国外にも成果を発信することが出来た。また、重要な中継地であることが示唆された台湾では、現地の研究者の協力を得て、GPSに記録された地点の環境を実際に見て回りながら情報交換を行うことが出来た。成果は論文にまとめ、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で使用するGPSは、装着した個体を翌年再捕獲して回収し、データを読み取る必要がある。死亡や他の繁殖地などへの移動などにより、すべての個体が翌年同じ繁殖地に戻ってくるわけではないため、回収できるデータ量は翌年以降の個体の帰還率の影響を受ける。平成29年度に装着したGPSの、平成30年度調査における回収率は、コチドリで約3割、シロチドリで約1割であり、コチドリの回収率は、選定した調査地において、これまでの経験から予想される帰還率とほぼ同等であった。追跡機器装着個体の帰還率は、一般に機器を装着しない場合に対して低下する傾向があるため、本研究における6個体からの回収は想定以上の成果であった。また、渡り経路の解明にはより多くのデータが必要ではあるが、平成30年度に回収された6個のコチドリのGPSのうち2個からは、繁殖地から越冬地までと、越冬地から繁殖地までの完全なデータを得ることができている。 このほか、GPSの発注から手元に届くまで約2か月かかることを考慮し、平成30年度に使用するGPSを、予算の前倒し請求を活用して平成29年度に購入できていたことで、野外調査がスムーズに進み、購入した22個のGPSのほとんどを装着することが出来た。シロチドリについては、今年度は調査地での繁殖が少なかったため装着個体が少なかったが、コチドリについては、関東と甲信越の調査地の両方でGPSを装着できており、平成31年度に回収ができれば、渡り経路における地域差の有無についても検討が期待できる。 野外調査終了後には、国内外の学会で成果を発表することができ、海外の研究者との交流や意見交換も実施できた。現状までの結果を用いて論文作成を行い、投稿にも至っており、以上のことから総合して、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って、平成31年度は、平成29年度および30年度にGPSを装着した個体を繁殖地で再捕獲し、データを回収することに尽力する。帰還した個体を発見するために、現地調査のほか、コチドリとシロチドリの繁殖期に、水鳥に関係したメーリングリストへの投稿などを通して情報提供を呼びかけ、目撃情報を募る。 過去2年の研究期間中に多くの個体にGPSを装着できたコチドリについては、回収されたデータから、渡り経路の同一繁殖地域内における個体差および繁殖地域間による差、また、複数の個体に利用される重要な中継地および越冬地などを解析する。シロチドリについては、情報の収集とGPSの回収に注力する。 本研究の成果は論文化のほか、国内外の学会等で発表し、あわせて渡り追跡の研究および河川や水辺の自然再生、生態系管理などに関わる情報収集を行う。論文の受理後に、研究成果を日本語でも発信できるように、Webサイトや関連する情報冊子等への寄稿の準備を進める。 本研究期間終了後の次の課題として、渡り経路の個体差の知見の蓄積のほか、繁殖地域における経路の違いについては、関東と甲信越では地域が近いために差が得られない可能性も鑑み、国内の、より離れた地域で繁殖する個体群の渡り経路の追跡を行う予定である。また、集団遺伝学的な面からも繁殖個体群の保全ユニットを検討し、国内外の水辺環境の連結性と保全に貢献する知見を蓄積していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の北村亘氏が担当する東京都では、平成29年度にシロチドリ7個体へ、平成30年度にシロチドリ2個体およびコチドリ5個体へのGPS装着を行った。平成30年度は、シロチドリの繁殖数が少なかったことに加え、コチドリが効率的に捕獲できたことから東京都の調査地における旅費の支出は少なかった。また、当初は、平成31年度は研究代表者である笠原がすべての調査地でのGPS回収を行う予定であったが、東京都でも相当数の個体にGPSが装着できたため、本年度も、東京の調査地においては北村氏が2種からのGPS回収を担当することとなった。研究期間の最終年度で回収率を高める必要があること、繁殖状況をみながら捕獲を行う必要があることから、頻度高く調査地に通う予定である。そのため、繰越額は、今年度の配分額と合わせて旅費として使用する。
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備考 |
2019年4月16日に信州大学理学部が主催する水と光の研究会で「どこからきてどこへいく?鳥たちの移動」と題して研究内容を学生および教職員を対象に発表した。
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