研究課題/領域番号 |
17K00648
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
畑 憲治 日本大学, 商学部, 准教授 (60468147)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | Novel ecosystem / 海洋島 / 侵略的外来種 |
研究実績の概要 |
近年、人間活動に起因して改変・劣化された生態系の保全、復元、管理において「novel ecosystem」という概念が注目されつつある。この概念によって生態系の保全、復元、管理の目標を従来の生物多様性などではなく対象の生態系の機能に基づいて決定することで、より現実的な生態系の保全、復元、管理の提案が可能になることが期待される。しかしながら現段階では社会的な認知度も低く、野外データに基づく科学的な知見の蓄積が求められている。 本研究では、外来木本種の侵入とその駆除に伴う森林生態系の変化を、novel ecosystemの考え方に基づき、生態系内の水循環と植物群集の特性の組み合わせに着目して明らかにする。そのために、小笠原諸島において外来木本種トクサバモクマオウの優占の程度と駆除からの経過時間が異なる場所において、植物群集特性と水文環境特性の関係を比較、分類、序列化する。これらの結果に基づいて外来木本種の侵入と駆除に伴って森林の植物群集と水文環境がどのように変化するかを予測し、生態系の機能の持続性を重視した生態系の管理手法を提案する。 2019年8月から父島のトクサバモクマオウが優占する森林(以下モクマオウ林)と在来木本種が優占する森林(以下在来林)において土壌水分センサーとデータロガーを設置し、表層土壌の土壌含水率の継続測定を開始した。途中半年から1年の間隔でデータの回収と機器のチェック、メンテナンス、交換をしながら2022年1月まで測定を継続した。 2022年1月に回収したデータを用いて表層土壌の体積含水率の時間的な変化パターンをモクマオウ林と在来林で比較した結果、測定期間を通してモクマオウ林における土壌含水率は在来林よりも有意に低かった。これは、トクサバモクマオウの優占が土壌水分環境を改変させたことを示唆する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルスの蔓延のため、当初予定していた2021年8月の小笠原諸島父島への渡航ができず、急遽約5か月遅れて2022年1月に渡航し調査(データの回収など)を実施した。そのため、最終的なデータの回収とこれらのデータの解析開始の時期が遅れた。また、本来半年おきに実施する予定であった土壌水分環境データの収集と土壌水分センサーとデータロガーのチェックおよびメンテナンスができなかったため、機器の故障やデータのエラーが予定よりも多く、予定よりもデータのチェックに時間を費やすころになった。その結果、今年度内に予定していた解析の一部が終了できなかった。 また、当初予定していなかった2022年1月の調査には2021年8月に予定していた調査と比較して十分な調査期間および調査補助者を確保できなかった。そのため、2021年度に実施予定であった野外調査の一部が実施できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年8月に実施予定で2022年1月に実施できなかった調査を2022年8月に実施する予定である。この調査で得られたデータも含めて今年度実施できなかったデータ解析を実施する予定である。 得られた約2年間の土壌含水率の経時的な変化と降雨量および非降雨期間(降水量が一定以下の連続した時間)との関係を定量化する。次にこの関係が森林におけるトクサバモクマオウの優占度、他の樹種の優占度や種構成およびこれらの時間的な変化に依存しているかを検証する。以上の父島の結果と西島における結果を比較することで有人島と無人島における傾向を比較する。最終的にトクサバモクマオウの侵入と駆除に伴って森林群集の種構成と土壌水分環境がどのように変化したかを明らかにする。 これに基づいて森林生態系が持つ機能の1つである水循環の観点から将来の持続可能性を評価し、そのために必要な具体的な管理手法などについて提案する。特に、地球温暖化に伴って予想される島嶼域の乾燥化が、自然生態系の水循環だけでなく生活用水などに生態系サービスにも影響を及ぼす可能性がある。このような人間も含めた生態系の持続可能性を検討し、具体的な提案をするために必要な基礎的な知見として本研究の成果がどのように生かせるのかを見据えて成果をまとめる。なお研究成果は、随時学会や学術論文とて発表する
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナウィルスの蔓延のため、当初予定していた2021年8月の小笠原諸島父島への渡航ができなかった。またその結果、当初の予定では2021年8月の調査時に一定台数が故障すると想定して計上していた土壌水分センサーとデータロガーの修理依頼費用を使用する機会がなかった(2022年1月の調査終了後に修理が必要な台数を確認し、見積もりから修理やそれに関する会計上の手続きを2021年度内に終了することは不可能であった)。また、当初予定していなかった2002年1月の調査には2021年8月に予定していた調査と比較して十分な調査期間および調査補助者を確保できなかった。そのため、予定していた旅費および謝金を使用する機会がなかった。 使用計画:2021年8月に実施できなかった野外調査を2022年8月に実施する。2022年1月に回収しきれなかった調査杭や標識などの調査区設定のために使用した器材などを回収し、現地の森林の原状回復を実施する。また、この作業では研究代表者の渡航可能な期間に応じて必要であれば調査補助を依頼する。また、2022年1月に回収した故障した土壌水分センサー及びデータロガーの修理を依頼する。
|