生息場所を頻繁に移動しない水生昆虫では、淵に生息する個体群のほうが瀬より放射性Cs濃度が高くなるが、瀬と淵を頻繁に行き来する水生昆虫では、放射性Cs濃度に違いがないこと、渓流魚においても同じ傾向がみられ、止水に生息する個体群は、流水のものより放射性Cs濃度が高くなることを明らかにした。 空間線量率の高い流入河川や近隣河川の落葉・藻類・砂・水生昆虫より、湖からの流下河川(空間線量率は低い)のほうが放射性Cs濃度が高いこと、流下河川では、川底の砂や一部の水生昆虫の放射性Cs 濃度が上昇していることを明らかにした。 カワゲラ科は捕食性であるにも関わらず放射性Cs濃度が比較的低いことが分かった。また、水生昆虫の汚染度は分類群によって異なっていた。これには代謝の違いが関係していると考えられ、塩類細胞においてCsと同じ動きを見せるKの排出を調べたが、排出はみられなかった。塩類細胞数を汚染地と非汚染地に生息する水生昆虫で比較しても違いはみられなかった。 空間線量率が低いほど、落葉、藻類、砂、水生昆虫の放射性Cs濃度の生態学的半減期が長いこと、藻類から水生昆虫への移行係数が高いことを明らかにした。また、生態学的半減期は、分類群によって異なり、砂の中にもぐるタイプの水生昆虫では長くなることを明らかにした。空間線量率の高い地域では、流速が速いと藻類の放射性Cs濃度は低くなったが、空間線量率の低い地域では高くなる傾向がみられた。空間線量率の低い場所では、様々な環境変動が影響するために単純な減少傾向が示されず、流域内の汚染された砂・落葉等が継続的に渓流にもたらされる結果、渓流内の放射性Cs濃度が下がらず、生態系から排泄されにくい状態であると考えられる。 渓流生態系における放射性Cs汚染の動態の一端を明らかにしたが、これらの研究は世界の淡水生物の放射能汚染対策における基礎研究の一つとなるであろう。
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