本研究は、既存の太陽電池の発電効率を向上させるために、光の波長を変換できる性質を持つ新しい多元系酸化物の開発を目的として実施した。 新材料を開発するために、亜鉛とアルミニウムを主成分として含む多元系酸化物を母体として用い、目的とする性質を持たせるために様々なイオンを共添加した結晶を液相中で合成する手法を確立した。本手法によって合成した多元系酸化物の良質な結晶を用いて、結晶学的性質と光学的性質を詳細に評価・解析した。 その結果、7つの元素で構成される組成を最適化した多元系酸化物の結晶に、紫外光を可視光に変換するダウンシフトと、赤外光を可視光に変換するアップコンバージョンの2つを組み合わせた双方向波長変換を発現させることに成功した。ここでは、酸化物母体が持つダウンシフトを利用しつつ、イオンの共添加によってアップコンバージョンを発現させることが、単一組成の化合物において比較的変換効率が高くなることがわかった。また、同物質の粒子を含む膜を作製し、この膜を使用するとアモルファスシリコン太陽電池の特性向上が可能になることを明らかにし、波長変換型太陽電池の有用性を示した。 良質な結晶を合成することが困難な多元系酸化物を比較的低い温度で合成できる手法を確立したことは、他の多元系酸化物への応用が可能である面で有意義であると考える。また、アップコンバージョン現象は、本研究で対象とした太陽電池の高効率化以外でも、光医療やレーザ技術、触媒による水素製造などその技術的応用範囲は広い。本研究によって得られた成果は、我が国の物質科学の学術的基盤形成のために意義あるものと考える。
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