下水処理で発生する余剰汚泥は我が国の主要な産業廃棄物である。余剰汚泥の減容手段として嫌気消化法が普及しているが、それでも減容率は30%程度であり、残り70%は『これ以上は生分解が進みにくい残渣(消化汚泥)』として残存する。最近になって研究代表者は、この消化汚泥を分解できる糸状菌6株を土壌から初めて見出した。そこで本研究では、消化汚泥を分解してバイオガスを発酵生産する菌叢を見出した。そこで本研究では、これを用いた水素発酵生産に関するバイオテクノロジー基盤研究を行った。 2020年度は、前年までに消化汚泥分解菌叢を加熱処理して得られた水素生産菌叢の構成メンバーを解析した。その結果、菌叢にはClostridium属やEnterobacter属のように従来から知られている酸・水素生成菌が主体であり、加熱処理によりメタン生成古細菌が死滅し、菌叢から排除されていることも確認された。しかし、この菌叢を用いた発酵試験では水素生産能が微量であった。 そこで2021年度は、培養容器をスケールアップし、気相中の水素分圧を下げて発酵試験を行ったところ、水素生産量が大きく改善された。電導素材である活性炭の添加により水素生産が改善されるかも検討したが、活性炭粒子表面に微生物が吸着・堆積し、期待したほどの水素生産量は見られなかった。 他方、生産されたガスは生物由来であることから、水素以外に二酸化炭素を含有しており、これを除去する必要がある。二酸化炭素はアルカリに易溶であることから、バイオガスをアルカリ培養液に通気することで二酸化炭素を除去して改質が可能である。そこで、アルカリ条件で良好に生育する微細藻類をスクリーニングし、3属10株の分離株を得ることができた。今後は、藻類培養液にバイオガスを通気し、二酸化炭素の除去が可能かを検討していく計画である。
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