研究課題/領域番号 |
17K00672
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研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
野田 浩二 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (30468821)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水資源 / 権利 / 制度変化 / 経路依存性 / 既得権 |
研究実績の概要 |
現在取り組んでいる研究テーマは2点ある。ひとつは、既得権としての農業水利保護を組み入れたわが国の河川法がどのような政策的帰結をもたらしたのかを分析した論文(Governance, rights, and resource development costs of water: lessons from post-war Japan)を土台に、水資源開発の真のコストとは何かを示す論文を執筆中である。具体的にいえば、河川法が1997年に改正されたとき、その最大の注目点は法の目的に環境保全が追加されたたことであった。この改正をもたらしのが、当時もっとも大きな社会運動であった長良川河口堰建設問題であった。この長良川河口堰を事例に、水資源開発の本当の費用とは何かを分析したのである。水資源開発の真のコストは、事業費だけでなく環境破壊などの社会的費用、そして開発水の利用率(=利用水量/開発水量)から規定される。つまり、水資源開発の真のコストは、(事業費+社会的費用)*利用率の逆数として定義されるのである。長良川河口堰の場合、真のコストはそうでないものの10倍以上高くなった。水資源開発のコストは大きな焦点になるが、制度派経済学が強調してきたように、何をコストとして計上するのかは制度や政治状況に依存する。さらにこれまで論じられてこなかった点として、水資源開発の真のコストは事業完成後の利用状況にも依存するのである。 もうひとつは、これまでの研究成果をまとめるものとして、国家によって保護される「既得権」がどのように市場メカニズムを阻害するのか、この既得権問題を防ぐには、Safe Minimum Standardのような所有権に対する事前制約機能を設定することが、持続可能な自然資源管理を実現するうえで重要となることを示す論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度では、主として日本の地下水管理制度における権利構造分析を実施する予定であった。地盤沈下対策として工業用水事業が推進されてきた反面、社会経済状況の変化によって工業用水の需要が低下し、工業用水事業経営に大きな影響を与え、事業再編あるいは撤退が大きな政策課題となっている。現在執筆中の長良川河口堰を事例にした論文において、この未使用開発水が水資源開発コストにどのような影響を与えているのかを分析しており、当初の目的の一部は達成されている。また、地下水の権利構造を分析するためには、実証分析に耐えうる所有権構造の枠組みを特定化する必要がある。所有権構造の枠組みに関する研究に時間がかかっていたが、二つ目の論文で所有権構造の枠組み(分割権、利用権、収益権、移転権、処分権の総体としての所有権)を提示するめどがついた。当初の予定よりも少し遅れてはいるが、これらの論文を完成させ次第、日本の地下水管理制度の権利構造分析を実施したいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、所有権構造の枠組みについての論文を執筆中であり、その完成後、日本の地下水管理の権利構造分析に入る。当初の予定では、平成30年度はカリフォルニア州地下水管理制度の分析とその一回目の現地調査に入る予定であった。しかしながら当初の予定を変更し、先にオーストラリアの地下水管理制度を研究したいと考える。その理由は第一に、オーストラリアの地下水管理制度の歴史の方が浅く、既得権の影響を受けにくいなかで制度改革が実施されていると考えられるからである。第二に、地下水管理制度と地表水管理制度との関係性を同時に分析することが重要であることに思い至り、両者の制度改革を実施しているオーストラリアを先に分析した方が、比較研究する際に有用と考えたためである。そのためカリフォルニア州とオーストラリの制度研究の順番を入れ替え、平成30年度および31年度に、オーストラリアの地下水および地表水管理制度における権利構造分析を実施したいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定よりも書籍代などへの支出が少なく済んだために、繰越金が発生した。次年度以降、海外調査を予定しているので、繰越金は海外調査費用に回す予定である。
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