研究課題/領域番号 |
17K00672
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研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
野田 浩二 東京経済大学, 経済学部, 教授 (30468821)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水政策 / 地下水管理 / オーストラリア / 既得権 / 水利権 / アメリカ / 日本 / 比較制度研究 |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究実績は二つある。第一に、地下水管理を含む水政策全般に当てはまる重要な論点として、「既得権」問題がある。環境問題は不完全な資源開発政策のもとに発生し、それゆえに「過大な」開発を支える権利制度が展開するなかで環境問題を解決する必要に迫られる。このような事後的問題解決に起因する政策コストは、これまで論じられることはなかった。しかし、環境政策の成否はこれらのコストに依存するし、権利売買の制度化か必ずしもこのコストの圧縮につながるわけではない。アメリカでは、環境保全の観点から既存ダム撤去が進められており、その最大の事例がオレゴン州からカリフォルニア州を流れるクラマス川の4つのダムの撤去事例である。この事例を用いながら、なぜ事後的問題解決に起因する政策コストが、環境政策を評価するにあたり重要となるかを次の論文で示した(「『政策の失敗』の政治経済学:ダム撤去問題にみる歴史の重要性」『水資源・環境研究』31(2))。 第二に、研究実施計画に則って、オーストラリア・マレー川流域の水政策改革について予備調査を実施した。マレー川上流域(ヒューマ湖など)の予備的な実地調査を行うとともに、当該水政策に関する資料調査を国立図書館で実施した。この改革の特徴は、連邦政府などが環境用水を確保するための権利再分配の実施にある。その主な手段は既存水利権(かんがい農家)の買い取りと農業設備の近代化であるが、既得権への配慮から前者から後者への比重が高まりつつあり、さらに各州の農業競争が政策手段の選択に影響を与えていることが示唆される、という興味深い事実を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の理論的側面(既得権の政治経済学)については、継続的に研究を実施しており、その一端はすでに論文として発表できた。またオーストラリアへの第一回現地調査を実施できたことで、日本では入手困難な資料を入手することができたし、複雑なオーストラリア水政策の概要を整理することができた。以上の点から、本年度の研究はおおむね順調に進展したといえる。 ただし、日本を事例にした地盤沈下抑制のための工業用水政策の経済的帰結の研究成果については、まだ示すことができていない。これは、当初想定していた地盤沈下の経済(金銭)評価についての資料を入手できていないことによる。そのため研究方針を一部変更し、DEA(data envelopment analysis)を利用しつつ、工業用水事業の長期的な経営評価に焦点を当てる予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針として、三点あげる。第一に、本研究の理論的側面(既得権の政治経済学)については、引き続きその完成度を高める。第二に、オーストラリア水政策の一部をなす地下水制度改革の実態を調査する。地下水に関しても、環境保全のために権利を買い取った事例があったので、この事例を中心にして調査を進めたい。第三に、オーストラリアの場合よりもアメリカの一部の州では、農業による地下水依存度が高い。カリフォルニア州を念頭に、地下水管理制度改革において、既得権(かんがい農家)をどのように取り込んだのか、その結果制度改革の中身にどのような影響を与えたのかを調査する。第四に、DEA(data envelopment analysis)を利用しつつ、日本の工業用水事業の長期的経済的帰結について明らかにしたい。東京都工業用水事業が撤退を決定したように、工業用水の事業環境は厳しさを増しており、その事業の正統性が問われている。この点を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、二つある。第一に、2018年度末のオーストラリア調査については、2019年度に支出されるからである。第二に、その他(書籍)の支出が想定よりも少なかったからである。今年度は海外調査を二回予定しているので、残額の大半はその旅費に当てられる予定でいる。
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