今年度も引き続き、オーストラリアの南部マレー・ダーリング流域における水利用の経済分析を行なった。昨年度においても、南部マレー・ダーリング流域について、水利権取引などの制度改革が水利用の生産性にどのような影響を与えたのかを明らかにするために、固定効果モデルのパネル分析を行った。その成果を専門誌に投稿したが、因果推論に基づく結果報告が求められうまくいかなかった。 そのため、古典的な因果推論の分析手法である「差分の差分法(difference-in-differences)」を採用し、当該流域の最下流に位置するサウス・オーストラリア州を介入グループ、それ以外をコントロール・グループとし、そしてミレニアム渇水後、サウス・オーストラリア州への水配分が完全に戻された2011水年度を介入時期として、水使用量への介入効果を推定した。なぜサウス・オーストラリア州に注目したのかといえば、その理由は二つある。まず、非渇水時においては、サウス・オーストラリア州への水配分量が制度上保証されており、サウス・オーストラリア州への水配分量が100%を下回るということは、それだけ南部マレー・ダーリング流域の渇水は深刻なものとなるからである。次に、サウス・オーストラリア州のかんがい農業は他に比べて、ぶとうなどの多年作物に依拠し、水使用量を簡単に減らすことができないからである。 分析の結果、農地面積や水利権取引価格をコントロールすれば、サウス・オーストラリア州への介入効果は統計的に正、つまりサウス・オーストラリア州の水利用量は、他地域の傾向に基づいて計算された潜在水使用量よりも多くなったことがわかった。ミレニアム渇水後、サウス・オーストラリア州は制度的に利用できる水量のほぼすべてを利用していたことが示唆された。
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