研究課題/領域番号 |
17K00680
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅和 筑波大学, 芸術系(名誉教授), 名誉教授 (40216437)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 被爆樹木 / 樹木保全 / 被爆遺産 / 広島市 / 長崎市 / 3次元レーザ測量 |
研究実績の概要 |
1)研究対象とする被爆樹木の確定と可視化:広島市の被爆樹木について固有番号・属性情報・位置情報などの整理とデータベース化を行った。 2)被爆樹木の類型化:被爆樹木を樹種・基本樹形・移植の有無・被害の程度などにより類型化し,それぞれの特性について考察した。これにより,被爆樹木の遺産意義は類型ごとに異なるため,それぞれ考察する必要性があることがわかった。 3)被爆樹木の精密測定:3Dレーザスキャナーにより,典型的な被爆樹木としての特徴を表しているものを数本選定して,実測を行った。これにより,被爆樹木を数センチの解像度において再現でき,被爆樹木の傾斜について,断層面の図形的重心点群から,被爆樹木の傾斜方位と勾配を合理的に推定できた。その結果,以前の簡易測量による成果である,「被爆樹木のある類型は爆心地に向けて傾斜している」ことが再確認された。さらに3Dレーザスキャンのデータを用いて3Dプリンタによる立体模型の構築を行った。以上が,当初の研究計画において想定された項目であるが,それに加えて以下の成果が得られた。 4)広島市役所の行政担当セクションと,被爆樹木を平和観光(ピースツーリズム)に取り入れる方策について打ち合わせ,今後の被爆樹木保全方策の方向性を検討できた。 5)今年度のノーベル平和賞が核廃絶に関連することであったことから,被爆樹木にも国際的関心が高まり,研究代表者および研究協力者グループの協力により,国連事務総長による国連本部前庭への被爆樹木2世の苗木植栽,ノーベル平和賞贈呈式前日のセレモニーとして,広島市長よりオスロ大学への被爆樹木2世の種子の贈呈が実現した。これらは,研究の学術的成果ではないが,本テーマが政策的動向と無縁ではないことからあえて記載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度計画にあげた研究項目については,1)研究対象とする被爆樹木の確定と可視化 2)被爆樹木の類型化 3)被爆樹木の精密測定 4)未発見・未登録被爆樹木の発見と確認,である。それぞれおおむね予定どおり進捗しているが,遅れている部分として,1)被爆樹木の分布状況の空間情報化について未済である。4)長崎市における未発見・未登録の樹木の発見と確認ができず,長崎市における研究対象の確定が未済である。進んでいる部分として,広島市役所と行政的課題について議論を始められたことがあげられる。また,研究協力者グループとの協力により,当該年度のノーベル平和賞に関連して,被爆樹木の2世苗木を国連本部に,種子をオスロ大学に寄贈できたことは,被爆樹木についての関心を高める上で意義があった。 以上,予定どおり進捗している部分,やや遅れている部分,先取りできた部分が混在しているが,遅れている部分としては,研究計画当初より年度をまたぐ継続的課題として設定されており,全体としてはおおむね順調であると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画について,特に大きな変更はない。 平成30年度の計画は,当初に計画したとおり 1)被爆樹木の類型別遺産意義の考察 2)被爆樹木の法的・行政的担保方策の検討 3)被爆樹木の精密測定 4)未発見・未登録被爆樹木の発見と確認 である。 平成29年度の計画1)にあげた被爆樹木の可視化の課題を発展させて,広島の都市における被爆樹木の分布を3Dモデルにより立体的に展示することを企画する。これにより,市民や行政における被爆樹木に対する意識を啓発し,本来の研究目的である「被爆樹木の保全に関する環境政策的な効果」を期待したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については,現在使用中の機器を更新する必要がなかったこと,消耗品費についてはストックにより消費がまかなえたこと,旅費については,長崎での現地調査を延期したことにより支出が抑えられた。 人件費については,予定していた作業者が体調不良のため外注せず研究代表者が行ったこと,謝金については,一部の研究協力者から辞退されたことにより支出が抑えられた。 次年度には,機器の更新と消耗品の補充を行う必要があり,当該年度から延期した長崎における調査を実施する予定である。
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