従来の気候変動施策に対する費用便益分析において、明示的に考慮されていない利他的便益を組み入れた費用便益分析モデルを社会的選好に基づいて開発するため、気候変動影響削減について利他的便益を考慮した表明選好法調査(コンジョイント分析)を2018年度に日本、米国、インドネシア(標本サイズはそれぞれの国で1000)で実施し、2019年度は3か国の社会調査結果を混合ロジットモデルにより分析した。 推定した効用モデルにおいては、温暖化対策実施に対するASC(固定項)を導入するとともに、利他的効用(将来世代温暖化影響リスク削減、他国の温暖化影響リスク削減)と利己的効用(現在世代かつ自国の温暖化影響リスク削減)に分けて属性係数と支払意思額(WTP)推定を行った。その結果、健康被害リスクについては、自国の現在世代健康リスク削減と将来世代健康リスク削減それぞれにWTPが推定され、それぞれのWTPを基に2%の純粋時間選好(割引率)が推定された。他国の健康リスク削減に関しても、現在世代と将来世代の健康リスク削減に関するWTPが推定されたが、その大きさはそれほど変わらず、全体として正の時間選好は考察されなかった。他国の現在世代および将来世代の健康リスク削減に対するWTPの大きさは、自国の将来世代のリスク削減に対するWTPと近く、利他的便益に対する共通性が見られた。これらから、温暖化対策の効果は利他的便益である他国将来世代の被害リスク削減に寄与する部分が大きいとしても、それを対策国のWTPで評価することが不適切とは言えないことが示された。また、推定された利他的WTPを基にした確率的生命価値は、現在政策評価に用いらているものとオーダーレベルで近いことが示された。さらに、利他的便益を主とする温暖化対策の評価では割引率はあっても非常に低くすべきことが示され、温暖化対策の評価額は大きくなる可能性が示された。
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