研究実績の概要 |
平成30年度は前年度の栽培試験の結果を受けてメンテナンスフリーで栽培可能かつ,収穫後に備蓄して長期保存することができる栽培品目として,ミニトマト(アイコ,シシリアンルージュ,サンマルツアーノリゼルバ),カボチャ(坊ちゃん,赤皮栗カボチャ),ゴーヤ, サツマイモ(紅あずま,ベニハルカ,タマユタカ,ハロウィーンスイート,シルクスイート,紅高系,安納)を東京大学農学部付属生態調和農学機構(田無農場)に栽培し,東京大学農学部1号館屋上にプランターを設置してイチジク,ブラックベリー,ブルーベリー,ゴールデンベリー,ミニトマト,ゴーヤ,カボチャを粗放栽培して,生育状況および収穫量を調査した.栽培過程で病害虫の発生は農場では見られず,屋上ではイチジクが枯死し,ブラックベリー及びブルーベリーは完熟させる直前に鳥の食害を受けた.ゴールデンベリーだけは鞘に入っているため収穫できた.また,緑葉の繁茂状況もゴールデンベリーが最大になった.ミニトマトはオオタバコガの幼虫に食害を受けて穴が半数以上に開いていた.ゴーヤは生育できた.カボチャは生育状況が良く結実した.成長量で比較すると同じ栽培品目でも農場の圃場の方が収穫量と葉の繁茂の両方が旺盛であった.一方で,屋上プランターでの粗放栽培には屋上の熱環境が地上よりも屋上コンクリートからの輻射熱もあるため高温化した事とプランターの土が軽量土壌であったために保水性が悪かったため自動潅水装置を装着した.しかしそれでもなお,農場よりもはるかに生育状況も結実も少なく,屋上にプランターで野菜を粗放栽培することによるヒートアイランド緩和効果は小さいことが示唆された.サツマイモの収穫後に室温を19℃一定の室内に新聞紙で包み保存した芋を収穫後に6か月まで保存して断面を見ると黒色変が見られ,可食部が多かったのは芋の直径が大きく芋重量が大きなタマユタカのみとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の目的は都市の中の未緑化部の表面温度を下げて都市のヒートアイランド緩和させるために屋上のコンクリート面や農地に野菜や果物を植えて可能なかぎり天水だけで手間暇をかけずに粗放栽培で生育させる方法を試みてそこで生産された生産物を備蓄してどのくらい保存可能であるかを明らかにすることや,それらの備蓄食料として栽培が容易で多収の品目を明らかにして生産物を加工するところまでを予定していたが,屋上プランターの場合には水はけがよい軽量土壌(ビバソイルと軽石)を用いたことで保水性が悪すぎるため,乾燥を好むミニトマトであっても,収量は農場の1/2以下で,さらに結実してもガの幼虫の食害を受けて収穫物を備蓄物に加工するまでに至らなかった.農場で収穫された中で最も多収だったのはサツマイモで、単位面積当たりの収量(生重量)が多かったのはタマユタカ,ベニハルカ,ベニアズマの順であった.種類の中でも室温19℃で保存して6か月が経過して輪切りにすると,断面の直径が大きなタマユタカのみが,可食で他のサツマイモは食べられなかった.屋上に農園を作ることがマンションの不動産価値を高めたり居住者の交流の場となっているが,屋上の芝生化に比べると葉の繁茂は多く地表面温度を低下させることに寄与するものの,生産量で比較すると農地との差は歴然であるため,屋上を農地化することよりも農地にサツマイモやミニトマトの圃場を創って,雨水だけで栽培する方が実がつきやすいという結論になった.予定では平成30年度中に収集した写真等のコンテンツを用いてwebで閲覧できる備蓄食品を播種,育苗,畝立,マルチ,植え替え,収穫,生重量測定,備蓄食品の試作までを平成30年度に実施予定であったが,台風12号と13号が東京を直撃した際に屋上でゴーヤや登攀性のカボチャ,ベリー類を支えていた支柱(ガゼボ)やプランターが破損したため,全体に遅延している.
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今後の研究の推進方策 |
当初は防除のためにリビングマルチを予定していたが,蔓性の芋の生育をハーブ類が阻害する可能性およびイモ類の収穫時の作業性を考慮してビニールマルチとした.平成31年度は,カロリーベースで人1人が生きて行くのに必要な食物をサツマイモ(安納芋,タマユタカ,ベニハルカ),キュウリ(ガーキン種),ミニトマト(サンマルツアーノ種),伝統野菜数種類(聖護院大根,だだ茶豆,松本本瓜,滝野川ごぼう,滝野川ニンジン),ポロネギ,等を栽培する.平成29年と平成30年の栽培の比較からサツマイモの畝高が高い方が芋の成長が旺盛であったため,平成31年も高い畝を作る.キュウリや大根はピクルス,ミニトマトは乾燥トマト,サツマイモは干いも,芋けんぴ,カボチャは乾燥カボチャチップスなどの備蓄食料の試作を行う.さらに,サツマイモについては収穫後の保存用の最適環境を検討しなおして,長期保存と芋の質の劣化の経時的な発生状況を明らかにする.サツマイモや伝統野菜の栽培する意義,これまでの栽培の失敗と対策,収穫後の生重量調査や文献調査で得られた知見などをコンテンツとして備蓄食品の加工とその機能性について検索と情報発信するwebサイトを作成する.屋上と農場の気象データの比較を行い,それぞれの栽培環境の違いを比較する.農場には登攀させる立体を設置した場合と面的に広がる粗放栽培との比較を行ない,農地を立体化することによる効果を放射環境の比較で行う.栽培立体については台風による倒壊の危険性を回避するために通常のソバージュ栽培よりスパンを狭めて設置する.昨年より農場における収穫作業の回数を増やして1本当たりの収穫量の比較を行う.
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