研究課題/領域番号 |
17K00717
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
竹内 有子 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (80613984)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | デザイン教育 / 美術教育史 / デザイン史 |
研究実績の概要 |
今年度は、19 世紀後期英国の官立デザイン学校のデザイン教育における、素描教授の歴史的源泉をたどる調査を行った。同校は美術アカデミーと異なる専門教育を図るため、1837年に創設された。政府の文官ヘンリー・コール(Henry Cole, 1808-82)と仲間たちは、1852年以降、初等教育を含めた同校の改革および国定23課程に代表されるカリキュラムの策定を行った。 本研究の目的は、同校の根本を成す「素描」教育の成り立ちを明らかにすることである。従来の先行研究では、同校の教育方法の批判的検討に傾注しており、なぜ同校が幾何学的な線描を基盤としたかについては着目されてこなかった。今年度に行った現地調査で、同校のロンドン本校および主要な地方校の歴史資料を探索するなかで、同学校の設立史には様々なケースがあることが分かった。結果として、デザイン学校の素描教育の源泉を調べるにあたり、①文芸・哲学協会(literary and philosophical society)から、②職工学校(mechanics' institute)へ、また③芸術協会(Society for the Encouragement of Arts, Manufactures and Commerce)における民間の自発的な職業/実業教育を順序立てて検討する必要性が生じた。とりわけ③には、コール・サークルのメンバーたちが参与しており、産業振興に芸術がいかに関わるか、また科学と芸術の結合がデザインであるという同時代的な見解を表している。これが、1851年大博覧会(the Great Exhibition)後の公教育においても、素描教育が重視された土壌であった。よって、これまで軽視されてきた職工学校の教育と官立デザイン学校との連続性を積極的に評価し、具体的に考察することが肝要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヴィクトリア時代における「素描」教育の歴史的変遷を考えるにあたっては、芸術分野のみならず科学の専門分化、職業分化についても検討する必要がある。当初は、芸術分野におけるドイツとフランスの諸学校における素描教授の方法を比較検討する予定であったが、計画の変更が必要となった。そのため、英国内の実業教育の変遷に絞り、官立デザイン学校の後継となっている地方の大学および図書館宛に同時代の一次資料の所在から照会を行った。 今年度は、地方分校のなかでいち早く開講したマンチェスターに加え、絹織物の重要な産地であったマックルズフィールドのデザイン学校のアーカイヴで調査を行った。後者では、ロンドン本校に直接的に所縁のあるヴィクトリア・アンド・アルバート美術館および国立芸術図書館では見ることのできなかった、同時代の学生の受賞メダル(オーウェン・ジョーンズ賞)や学習課題作品、学校の蔵書資料を観覧できた。但し、ロンドン本校と同様、二校において、素描に関わるカリキュラムや指導要領は現存していなかった。またブライトン大学にあるデザイン・アーカイヴでも調査を行ったが、設立時の学校を偲ぶ建築彫刻や学校経営に関わる公文書はあっても、教育内容を具体的に明示や学生が記録した資料は残っていなかった。リーズ・ベケット(同校の後継となる)大学図書館にも照会をかけたが、同様の結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
国立芸術図書館・国立文書館で調査し、経年により喪失された官立デザイン学校(本校)関係資料が少なからずあることを把握した。国立文書館に現存する資料は、資金関係の公文書である。今年度の調査結果を踏まえ、今後はマンチェスター周辺、バーミンガムなどの主要な産業都市の地方校のみならず、ロンドンに偏在したデザイン学校分校(ランベス、イズリントン等)にも調査範囲を広げる。また国立芸術図書館では、官立デザイン学校の教師たちのロンドン本校時代の資料の探索を続ける。 上記と並行して、官立デザイン学校関係者たちの著述・指導書を精査して、素描教育の実態と諸反応について調査をまとめる。さらにマンチェスターで調査を行った際、マンチェスター市立美術館の学芸員から、官立デザイン学校出身の地元の芸術家の作品について、展覧会用に調査しているとの情報を得たので、次年度以降は地方美術館にも照会をかけて調査を続行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入について、割安な業者と価格の安い物を探して購入した。このため当初の見込み額より誤差が生じた。次年度はこの使用額を含めて、さらに計画的な使用を目指す。
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