| 研究課題/領域番号 |
17K00718
|
|---|
| 研究機関 | 神戸大学 |
|---|
研究代表者 |
長坂 一郎 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (10314501)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
| キーワード | デザイン論 / 使用 / ファッションデザイン |
|---|
| 研究実績の概要 |
本年度は、感性と使用に基づく設計論の構築に向けて、感性と使用に基づくファッションデザインの設計論構築のための実証実験を行った。特に「使用」の場面についての実証実験をファッションの専門家とともに進めた。具体的には、ユーザーが言語化できない感覚的な部分を、その使用シーンの組み合わせによって表現し、ユーザーのニーズの理解に役立てる可能性を探る実験である。
心理学において、Frozen Effect というものが知られている。これは、顔や身体、道具などは、止まっている画像よりも動画の方が「好ましい」と評価される傾向があるという効果のことである。Frozen Effect が衣服においても見られた場合、人は、衣服の使用、すなわち「着る」という行為が想像しやすい動画において、静止画よりも高く評価することになる。また、その評価の内容を分析することによって、人工物の使用において人はどういった「調和」を求めているかも検討できる。
Frozen Effect 実験を用いて、衣服の使用の評価のされ方について検証した結果、人は止まっている服よりも、その使用（変化）が表れている方を高く評価したことから、ファッションデザインにおいても Frozen Effect が再現されることが明らかになった。また、モデルの動きによって、Frozen Effect が大きくなる度合いが異なった。つまり、使用の仕方によって価値が上がるものとそうでないものが存在するということである。また、服の種類によっては、異なる動きによって評価が高くなるものと、そうでないものがあることから、人工物の種類によって、使用の評価のされ方が異なることが分かった。この実験により、本研究の主要な目的である「感性」と「使用」を結びつける重要な知見が得られた。
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が所属する部局の副研究科長（本年度は研究科長）となり、さらにはCovid-19 の影響により研究の進捗は若干の遅れを見せていたが、繰越により、本年度は以下の通りの成果を上げ、遅れを挽回している。
(2)「ファッションデザインの設計実験による検証」を行った。具体的には、用いる服やモデルの選定をファッションの専門家とともに行い、実験環境を行った。Covid-19 の影響から、今回の実験は Web 上で行い、Web 上での購買状況により近い形で行うこととなった。その結果、ファッションデザインでも Frozen Effect が再現することがわかり、また、服の種類や使用方法によって、その評価が有意に異なることが明らかになった。
(3)「工学分野(建築)への応用による感性と使用に基づく設計論の一般性の検証」においては、デザイン行為の逸脱について、前年に引き続き論理的基盤に立ち戻り検討を行なった。前年度、逸脱とはまず表出要件を満たさないか、あるいは調和条件を満たさない使用のことだということが示唆されたが、ファッションデザインにおける Frozen Effect 実験の結果により、こうした逸脱した使用については、一般にユーザーは低く評価するということがわかった。
|
| 今後の研究の推進方策 |
(2)「ファッションデザインの設計実験による検証」は、ファッションデザインにおけるフローズンエフェクトの再現、さらには、基本的な使用についての評価は終了した。ただ、今回の被験者は女性だけを対象としていたため、男性にも参加してもらい、フローズンエフェクトの男女差についても検討する予定である。また、動きの種類（使用の種類）と服の種類の交互作用をより細かく検討するため、服の具体的な使用場面を含めた実験を行う予定である。
今後、引き続きこの(2)の結果と(3)の考察を結びつけ、「感性と使用に基づく設計論の構築」を行う。具体的には、このファッションにおける「着る」という使用の場面を「住む」という使用の場面に応用し、その具体的な使用の場面において、感性と使用がどう結びつくのかを検討し、その成果のもとに感性と使用に基づく設計論の構築を行う。
本年度、研究代表者が所属する部局の研究科長となり、さらにはCovid-19 の影響により研究の進捗は若干の遅れを見せていたが、繰越によりその遅れを挽回できている。上記の実験結果に基づき、設計論の構築を急ぎたい。
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が所属する部局の副研究科長・評議員となったため、研究に従事する時間が著しく減少したこと、さらに、他の研究課題と同様に Covid-19 の感染状況によって、海外での成果発表が行えなかったことが次年度使用額が生じた主な理由である。今年はさらに研究科長となってしまったが、昨年度なんとか実験を行えたので、それに基づいて、本研究の仕上げを行いたい。
本年度は、Covid-19 の感染が収まれば海外にて成果を発表する機会も訪れるかもしれないが、期待薄である。そのため、本年度は昨年度行った実証実験の追加の実験を行う費用として繰越金を当てる予定である。具体的には、少しでも対面の実験を行える環境を整備するために、実験器具としての計算機環境を整える予定である。
|
