本年度は、これまで行ってきた「ファッションデザインの設計実験による検証」については、ファッションデザインにおけるフローズンエフェクトの再現、さらには、基本的な使用についての評価に基づき、本年度は「工学分野(建築)への応用による感性と使用に基づく設計論の一般性の検証」を行った。建築においては、アレグザンダーの初期理論(パターン・ランゲージ)を今一度検証し、パターン・ランゲージが生成しているのは、アレグザンダーが意図した幾何学的構造ではなく、そのパター ン・ランゲージを適用し続ける、すなわちパターン・ランゲージというゲームをプレイし続けるプロセスそのものからもたらされる人々の生き生きとした経験だということを明らかにした。このことは、「感性と使用に基づく設計論」が、ルールに基づくゲームのような形になる可能性を示唆する。また、「感性と使用に基づく設計論」においては、パターン・ランゲージのような調和を指向するルールのみならず、ルールからの逸脱を可能とするような仕組みを組み込む必要性があることが示唆された。 研究期間全体を通じては「現在提案されている多くの工学的設計論をサーベイ」については、最近提唱されている「デザイン思考」、そして、経済学で提案されているメカニズムデザインやサービス・デザインなど、多くの設計論についてのサーベイを行い、「ファッションデザインの設計実験による検証」については、使用場面に基づいたデザイン価値の評価のあり方について、有益な結果を得た。そして、その成果を工学一般に応用するための方法論的な知見、すなわち、調和と逸脱を組み込んだゲームとしての設計理論を構築する道筋が明らかになった。
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