一般に意匠設計においては,対象となる顧客を想定し,その顧客が好むように製品意匠を決定する.しかし,量産を前提とする製品の場合,対象とすべき顧客は多く,顧客間の感性のばらつきは大きい.従来の意匠設計法は,このような感性のばらつきを考慮していないため,顧客から収集した多様な情報は平均化されてしまい,その結果,全ての顧客に対して少しずつずれた製品意匠が生成されてしまう.そこで本研究では,顧客の感性にばらつきがあっても全ての顧客が満足できるように,最適化の一手法である「ロバスト最適化」の考えを導入し,顧客の感性のばらつきに対して頑健な製品意匠を導出することのできる製品意匠設計法の構築を行う. 本年度は,研究の最終年度として,(1)タグチメソッドに基づく最適意匠設計法の改良と,(2)大規模なケーススタディの実施を行った. (1)昨年度までに構築した手法に,被験者のクラスタリングと多目的最適化を導入した.前者は,大量の顧客を対象に提案手法を適用する際に,顧客の満足度を向上させるために導入し,後者は顧客の満足度とそのばらつきのバランスをとるために導入した. (2)提案手法の有効性を検証するために,外部の調査機関を使用し,ミニバンのフロントデザインを設計対象に,100名の被験者を対象としたケーススタディを実施した.100名の被験者は性別,年齢ともに均等に割り付けられており,その感性は非常に多様であることが想像される. ケーススタディの結果,被験者はアンケートの類似性に基づいて10のグループに割り振られ,グループごとに最適な製品意匠が導出された.導出された製品意匠を被験者に再度評価してもらったところ,自分の所属するグループ向けに導出された製品意匠をもっとも好む割合が高く,なおかつ選好のばらつきの度合いが小さいことが確認された. 現在は本研究の成果をまとめ,学術論文の作成を行っている.
|