研究課題/領域番号 |
17K00738
|
研究機関 | 桜美林大学 |
研究代表者 |
杉森 順子 桜美林大学, 芸術・文化学系, 教授 (00559891)
|
研究分担者 |
荒川 俊也 愛知工科大学, 工学部, 教授(移行) (50631248)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | プロジェクションマッピング / 映像デザイン / メディアデザイン / 統計解析 / コンテンツ / 映像イベント / プロジェクション / 事例調査 |
研究実績の概要 |
「プロジェクションマッピング」とは、建物や立体物の形状に合わせて映像を変形し、プロジェクタで投影する技法である。本研究は、これまで十分な学術研究が行われていなかったプロジェクションマッピングの事例調査を行い、情報を収集して作品のデータベースを作成することである。そのデータをもとに項目の統計的解析を行い、関連性を定量的に評価する分析手法の構築を目的とする。また、映像事例の統計解析に加え、記録映像などの定性評価を融合させることで新たな映像研究手法の構築につなげる。さらにこの手法を現在の多様な映像分野へ適応を行うことで、新たな映像研究の手法を提案し、映像をデザインという視点から捉えて考察する、「映像デザイン学」の提言を目指している。 2018年度は、これまでに行ってきたプロジェクションマッピングの制作に実績のある企業や団体13社の作品事例の情報を精査することを重点的に行った。調査対象期間は、黎明期と考える2011年からの6年間とした。書籍やプレスリリースなどの文献資料やウェブサイト、映像制作会社の作品実績等から、情報の収集を行っている。しかし、これらの情報は共通のルールやフレームワークがないため、情報の形態や記載方法も様々で、不明確な点が多い。そのため研究代表者らは直接制作会社に協力を依頼し、聞き取り調査などを行ないデータの取集を行った。現状で収集可能な実施日や制作者名、制作目的などの情報の調査を進め、国内における制作事例のデータベースを作成している。 また、プロジェクションマッピングは制作に機器やコンピュータ、ソフトウェアを欠かすことができないコンテンツである。実社会での技術や活用方法の変化は極めて早いことから、並行してプロジェクタを活用した映像コンテンツの動向や関連技術の活用状況の調査も行った。また、これらをまとめ、学会や研究会等で講演を行うことで研究成果を広く社会に示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度は研究代表者が所属を変わったことにより、研究環境が大きく変わり、まずは異動先の研究環境を整える必要があったため、当初の計画よりやや遅れている。文献やホームページなどの資料から動向調査や現状分析をするとともに、プロジェクションマッピングの制作会社に情報提供を呼びかけ、作品ごとの実施年月日、場所、内容などの詳細な調査を行ってきた。本年度は、これらを統計分析が可能となるよう調査を重ね、情報精度を高めることに注力した。計画では、制作会社の5年間の作品を調査対象としていたが、期間を広げ2011年から2016年までの6年間を調査対象とした。時系列にデータベースを作成し、件数の推移を示したことで、国内でプロジェクションマッピングの制作事例数は、2012年から2013年に掛けて急速に増加したが、それ以降下降気味であることがわかった。このことから、国内のプロジェクションマッピングは、2013年がブームのピークの年であったと考えられる。さらに、年々屋内型の作品事例の割合が増え、多様な活用方法が増えていることが明らかになった。 本年度はこれまでの研究成果や情報をまとめ、日本オペレーションズ・リサーチ学会や電子情報通信学会サイバーワールド研究会などで招待講演を行い、最新のプロジェクションマッピングの動向や制作状況、今後の可能性について、同分野への興味と理解を広げる活動を行った。またInternational Display Workshops(IDW)でも研究成果の発表を行い、国内外に広く研究成果を示した。同国際学会では、特別展示としてプロジェクションマッピングを活用した作品展示と新たなプロジェクションマッピングの技術展示も行い、多くのエンジニアや研究者と議論を重ね交流し、より広く映像デザイン学の理解に繋がる活動に努めた。次年度もこうした活動はさらに進める予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、研究代表者らが独自に文献やウェブサイトなどから調査対象の制作会社や団体の作品制作事例調査を行い、さらに各社に調査への協力と情報提供を依頼している。しかし、情報収集が困難な事例も多かった。この要因として、情報提供側の企業にとってはビジネスに直接関わる側面があり、データ提供に必ずしも積極的になれない事情があることがわかった。特に、プロジェクションマッピングは、映像コンテンツの中でもイベント型上映での実施が多く、時限的に集まるスタッフ構成であることも多い。また、クライアントワークの事例が大半のため、詳細な情報提供には主催者への許諾が必要な場合も考えられる。情報の表記もこれまで統一の基軸がないことから、表記方法も内容も様々である。さらに、目まぐるしく日々人も技術も流行も変化する映像業界と学術の間には、アーカイブへの意識に大きな隔たりがあり、情報の収集が難しい分野だと言える。これまで新たな映像分野やコンテンツの事例研究やデータベース等の作成が十分に行われて来なかった理由のひとつに、こうした問題が考えられる。一方で、今後の映像分野の発展のためには、情報の蓄積も重要であると考える。アーカイブに対する意義や研究に対する理解をどのように調査対象者に浸透させていくかが重要な課題である。 次年度は、これまで収集したプロジェクションマッピングの事例調査、映像制作者への聴き取りから得た調査データをもとに、主成分分析や重回帰分析、クラスター分析などの統計的手法を施し、プロジェクションマッピングの特徴や傾向を明らかにする。そこからさらにその定量的なデータに加えて、プロジェクタを活用した映像コンテンツや技術の動向や特徴的な事例を加味し、トレンドや時期やニーズを明らかにする。また映像制作者に制作環境や問題点についてのヒアリングや研究会などを行い、情報の蓄積を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究全体の内容に変更点はないが、研究代表者の異動により、研究環境が大きく変わったため、2018年度は既存の施設や設備を活用しながら、より効率的な新たな研究体制をつくることに努めた。また、継続してプロジェクションマッピングの制作会社の事例調査を行った。調査研究の過程から、対象となる制作会社からの情報収集や公開には制約もあることがわかったため、当初計画から内容を変更しており経費に差異が生じた。
|