研究課題/領域番号 |
17K00742
|
研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
曽和 英子 神戸芸術工科大学, 附置研究所, 研究員 (80537134)
|
研究分担者 |
ばんば まさえ 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (00249202)
曽和 具之 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 准教授 (00341016)
さくま はな 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 助教 (00589202)
黄 國賓 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (50441382)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 地域資源活用 / 丹波布 / 河内木綿 / 中国苗族 / 縞割 / 手つむぎ / 草木染め / 手織り |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の縞木綿の色彩・素材・製作技法、着用者の社会・文化的背景との関連を探ることにより、日本の色彩構成の原理を探り、デザイン教育と産業界における日本の色彩美の持続的継承のあり方を考察することを目的として進めてきた。 2017年度は、日本の縞木綿の色彩の展開、素材活用や技術開発における職人の拘りについて考察した。特に、柳宗悦らにより復興され、持続的に技術者を養成し続けている丹波布に焦点を当てた調査を行っており、以下の視点から分析を行なってきた。 1)丹波布の美学及びその技術伝承について:丹波布の残された古裂や丹波地域の縞帳を分析することを通して、丹波布の美についての柳宗悦らの評価と、丹波布技術者たちの素材・技術への拘りとの関連性を導き出すことができた。したがって、日本の風土・日本人の美学との関係の中で日本の縞の美が生まれたとの認識に至り、今後の持続的継承の指針を得ることができた。以上の見解をまとめたものを社会藝術学会の学会誌に投稿し、すでに審査を経て採択されている。 2)日本の縞木綿の色彩構成の多様性ついて:江戸時代庶民の衣生活に浸透し、急激な発展を遂げた縞木綿の色彩構成は、極めてシンプルでありながら、縞模様の無限に変化可能な特性と結びついて多様な展開を広げた。本研究は、丹波布や河内木綿の実物資料に基づきながらその縞構成のパターンをデジタル化し、それぞれのパターンの持つ心理効果についてアンケート調査を通して分析・分類した。この研究は、今後縞織の産業界及び雑貨デザイン教育などへの応用を目指して発信するための一つの基礎研究として位置付けることができる。 3)中国の縞木綿については、華東理工大学の劉淼副教授の協力を得て、苗族の技術者を取材することができた。国際的な協力関係を築きながら、今後の江南地域における調査も計画を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は、日本の縞の模倣・改良過程での色彩構成の成立と発展に焦点を当て、日本の縞の産地における現地調査を中心に行なうことを目指した。実際、広域に及ぶ調査はできなかったものの、日本の縞木綿の一大産地であった河内木綿と、産地としては大きくないものの昔からの技術を現在に継承している丹波布を中心に調査を進めることにより、日本の縞の色彩構成の成立と発展の過程を考察することができた。具体的な実施内容は次の通りである。1)日本・中国・インドの木綿の歴史と特徴、縞模様について:トヨタ産業技術記念館の織物産業技術の歴史資料見学及びさまざまな文献資料を通して、日本の木綿と縞の歴史について把握。2)江戸末期から明治初期にかけて生産された縞木綿の特徴分析:大阪日本民藝館に収蔵されている丹波布の古裂3点・復興品4点についての実測;大阪商業大学商業史博物館収蔵の縞木綿約300点・格子木綿約400点の目録の整理・模様のデジタル化;大阪商業大学商業史博物館収蔵の縞木綿10点についての実測。3)縞木綿の持続的発展について地域・織り手・消費者の多角的なアプローチを行なう:丹波布技術保存協会・丹波布伝承館の活動についてのインタビュー調査;神戸市立鈴蘭台高校における縞模様の感性調査;丹波布展の来場者に対するアンケートを実施。4)縞木綿を通した教育効果について:丹波布技術保存協会の技術者を招いて、神戸芸術工科大学において糸紡ぎ研修会を開き、触感体験を通した天然素材の様々な魅力について学習。 その他、中国の縞木綿の調査は次年度に予定していたが、当該年度に湖南省の苗族集落において第一回目の現地調査を行なった。今後の江南地域の南京布についての調査に向け、中国の手織りの技術についての見解を得ることができた。 以上、翌年度の実施内容と交差するところがありながら、総合的にはおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度に重点的に行なった丹波布に関する調査では、手紡ぎ糸・草木染め・手織り・緯に織り込んだつまみ糸(屑絹糸)、これら四つの要素が揃ってはじめて丹波布の渋い色彩美が生まれているとのことを知った。これらの技術は、地域の風土が生み出したものであり、地域の人々の生活そのものであると認識される。 2018年度も引き続き、縞が映し出す「日本の色彩美」について、その視覚的要素だけではなく、素材や触感などの要素を組み込んだ多角的視点で捉えて行きたいと考える。調査内容については、主に以下の4点について進める。1)丹波布の技術者たちやサポーターたちとともに、和綿栽培・糸紡ぎ・草木染め・手織りの一連の技術を丁寧に見直し、現代の地域教育への活かし方、産業としての持続的発展について検討する。2)日本の河内木綿及び他の地域の縞織物の模様について、引き続きデジタル再現と模様の分類を行ない、それらの縞模様の心理効果を調べる。3)東京国立博物館の唐桟留羽織(19世紀)及び千葉館山唐桟の織元を訪ね、模倣段階での桟留の染織技術及び配色の特徴を把握する。4)江戸時代日本にもたらされた「南京木綿」や桟留縞木綿についての調査を通して、日本の縞模様との違いを探り、日本の縞における異国的な美の存在を探る。 また、2019年度は、江戸時代の浮世絵に見られる縞の表現や着用者の身分などについて概観し、庶民の縞織物の社会的・文化的背景についての見解をまとめる。なお、縞織の試作を通して、素材や織り方の変化によりもたらされるテクスチャーの変化を検証し、デザイン教育への活用を試みる。また、地域の染織技術の映像や、国内外における調査内容、縞のデジタル再現画像などについての成果展示会、及び研究メンバー及び調査協力者による研究セミナーを行なう予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度には、およそ交付決定額の予定通りの支出となり、既受領額と支出額の差引額は1万円未満であった。 当該年度の支出額の中では人件費・謝金の支出が少なかったが、翌年度は現地調査や縞模様のデジタル再現において人件費・謝金の支出が多くなることが予想される。したがって、この差引額については、翌年度分として請求した助成金の人件費・謝金の費目に合わせて使用したいと考えている。
|