研究課題/領域番号 |
17K00754
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
片山 美香 岡山大学, 教育学研究科, 教授 (00320052)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 保育士 / 保護者支援力 / 親アイデンティティ / 保育者効力感 / 親役割認知 / 親役割評価 / 親役割受容 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は、育児と仕事を両立しながら就業継続を実現している現役保育士が、母親として生じる葛藤をどのように調整しながらキャリア形成を遂げていくプロセスモデルを構築し、母親役割を尊重した育児と仕事の両立支援の方策を得ることである。今年度は,この最終目的に向けた4年間の研究における2年目である。 昨年度は,私的な子育てをめぐる雇用条件や職場の状況といった環境要因,保育者の私的な子育てに対する認識という個人の内的要因の両面から,保育士にとっての私的な子育てをめぐる現況について,既存の研究内容を整理した。その結果,両立の困難に直面し,葛藤する中で保育の専門性の力量向上を認識することが示唆され,その具体的な内容を探ることが課題となった。 そこで,今年度は,葛藤すること自体が自らの専門的力量の向上に繋がるという前提に立ち,その実状を「保育士自身の親になる経験は保護者支援の実践に影響を及ぼすか」というリサーチクエスチョンに基づいて検討を行った。保育士が親になる経験については「親アイデンティティ尺度」(山口,2010),保護者支援の実践の力量については,先行研究を参考に新たな「保護者支援力」尺度を作成した。その他,「保育者効力感(三木・桜井,1998)」尺度を加えて,その関係性について検討した。その結果,「親としての役割が明確に認識されている保育士は,「保護者の養育力の向上に資する直接的支援力」「保護者の心情を汲み取る支援力」「保護者の支援に必要な情報収集力」が比較的高いことが示唆された。また,親としてのアイデンティティの確立が「保育者効力感」の正の規定因になることも示された。このことは,親としての当事者性を持った自身の子育てが,親への共感的理解や親の視点での子ども理解の深化を導き,専門的な力量の向上を確信し得たと考察された。この成果は,現在,学会誌への投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の研究目的は、次に示す2つの研究目的の達成により、育児と仕事を両立しながら就業継続を実現している現役保育士が、母親として生じる葛藤をどのように調整しながらキャリア形成を遂げていくプロセスモデルを構築し、母親役割を尊重した育児と仕事の両立支援の方策を得ることである。 (1);妊娠・出産期、育児休業期、復職前後期、育児期早期にある保育士を対象に短期縦断的な事例研究を行い、育児や母親としての意識と仕事との間で生じる葛藤の実態と調整のプロセスを検討する。 (2);育児経験のある現役保育士を対象に、妊娠期から育児期に至るまでの母親としての意識や育児と仕事との間で生じる葛藤及びその調整のあり方を調査し、キャリア形成への課題を検討する。 (1)については,初年度に妊娠期の研究協力者を得ることが出来なかったため,横断研究として実施して,成果を集積しているところである。 (2)については,700名余の調査協力者からの質問紙調査の回答を集計しているところであるが,数値データのみの量的解析に留まっている。今後は,自由記述式の回答をもとに,質的な分析を進めていきたいと考えている。また,育児期にある保育士に対して,両立上の葛藤,及びキャリア形成への影響についてインタビュー調査を実施し,育児期にある保育士の日常から有用な両立のあり方を探っていきたいと考えている。しかしながら,このインタビュー調査については,未だ着手できてないため,「やや遅れている」と判断した。次年度,インタビュー調査を行い,知見を深めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
育児経験のある現役保育士を対象に、妊娠期から育児期に至るまでの母親としての意識や育児と仕事との間で生じる葛藤及びその調整のあり方を調査し、キャリア形成への方途を探るため,700名余の調査協力者からの質問紙調査の量的尺度の設問への回答の分析はほぼ完了したため,次年度は自由記述式の回答をもとに,質的な分析を進めていきたいと考えている。 また,育児期にある保育士に対して,両立上の葛藤,及びキャリア形成への影響についてインタビュー調査を実施し,育児期にある保育士の日常から有用な両立のあり方を探っていきたいと考えている。このインタビュー調査への協力者を募り,個別の生活史を含めて,保育士の有用な両立のあり方のモデルの構築を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,インタビュー調査が実施出来なかったため,出張旅費,及びインタビューデータの入力作業に伴う人件費の使用が発生しなかった。 また,質的データ分析のためのノートパソコン,及びソフトの購入もなかった。 以上のことから,「物品費」「旅費」「人件費・謝金」が未使用額として残ったため,次年度,インタビュー調査を実施することにより,支出予定である。
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