研究課題/領域番号 |
17K00754
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
片山 美香 岡山大学, 教育学研究科, 教授 (00320052)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 保育士 / 保護者支援 / 親アイデンティティ / 保育者効力感 |
研究実績の概要 |
今年度は,保護者支援の力量を測定する尺度の作成を行った.具体的には,すでに収集済みであった子どもをもつ保育士731名(回答者は全て女性,平均年齢44.9歳(最小値=24,最大値=69,SD=9.2),保育経験年数の平均は17.3年(最小値=1,最大値=46,SD=9.4))による保護者支援力尺度(30項目,7段階評定)のデータをもとに理論的内容的妥当性を確認した後,構成概念妥当性を検討するため,探索的因子分析(最尤法)により因子構造を検討し,固有値の減衰状況と解釈可能性から4因子を抽出した(累積寄与率64.52%).次に,各因子を構成する項目について,Cronbachのα係数を算出したところ,4つの因子についていずれも高水準の内的一貫性が示され,本尺度の下位尺度がいずれも一定の信頼性を有していることを確認できた。さらに,同一のデータを用いた確認的因子分析を行った結果,適合度検定は有意(p<.001)であり,モデルの各適合度指標は許容できる適度な値であったことから,一定の信頼性と妥当性をもった「保護者支援力尺度」の開発に至った。 続いて,作成した保護者支援力尺度を用いて,「保育者効力感」「保育経験年数」に加えて,保育士の私的な子育て経験を反映する要因として,「親アイデンティティ」を設定し,保護者支援力に影響を及ぼす因果モデルの検証を行った。その結果,親としての経験は保護者支援力に直結せず,子どもや保護者への理解を促して子どもの発達に寄与する自信(保育者効力感)に繋がって保護者支援力の覚知を促していることが明らかになった。 なお,本研究では,子育て経験のある保育士のみを対象とした点に子育て経験が子どもや保護者理解に影響すると言明することは慎重であるべきだが,保育士のわが子の子育てと保育の専門性としての子育てとの両立支援の重要性を改めて確認することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
妊娠期にある保育士を対象に短期縦断的調査を行い、育児や母親としての意識及び仕事との間で生じる葛藤の実態と調整のあり方について、子どもの発達に応じた特徴を明らかにすることを目的としていたが、コロナ禍、十分な調査を実施することが出来なかったため、被調査者の振り返りにより、遡及的な調査を行う予定であるが未実施である。また、育児期にある保育士と協働するその他の保育士の実態や課題についても、調査を行う予定である。 一方、育児経験のある現役保育士を対象に、育児期の母親としての意識、及び育児と保育との間で生じる葛藤、及び両者間の被調査者の経験の認知については、得られたデータから分析を行い、両立維持とキャリア形成上の課題を明らかにする予定である。 以上の結果をふまえ、育児と仕事を両立しながら就業継続を実現している現役保育士のキャリア形成のプロセスモデル、及び母親としての意識を尊重した育児と保育実践の両立支援の課題と展望を提示する方向で研究推進を図る。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は自らの子育てと保育者としての子育てとを両立している保育者への直接的な面接調査や紙面を介した大規模な質問紙調査を予定していたが,現時点においてCovit-19の感染拡大状況に沈静化が見られない。引き続き,Covit-19の感染が懸念され,感染多発地域はもちろん,全国的な感予防策を講じる必要に迫られる状況が予想される。当状況下においては,今後も感染防止を最優先とし,保育者への直接的な面接調査をオンラインによる面接調査へ,また質問紙調査も用紙のやり取りが不要なオンラインによる調査へと調査方法の変更を行い,遅延している調査を行う予定である。そのため,急遽変更を余儀なくされた,オンラインでの調査方法の準備を進める。なお,オンラインでの調査に関しては,倫理上の問題や対象者の選出について慎重に検討した上で実施することとする。 さらに,上記調査結果の分析をもとに論文の執筆と共に,研究の総括を行うことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は予期せぬCovit-19の感染拡大予防に接し,幼稚園は休園,保育所においても感染予防の徹底と通常保育の見直しとCovit-19感染予防対策を講ずる等,保育現場は未曾有の対応に追われた。そのため,直接的にCovit-19に関連しない研究を依頼することは保育業務を妨げ,保育者を疲弊させる要因となることが懸念されたため,当初予定していた面接調査や質問紙調査の実施を見送らざるを得なかった。そのため,調査の実施や収集したデータに係る分析に充当する予定であった予算を全く執行することが出来なかった。 次年度は,引き続き,Covit-19の感染拡大状況と対策を鑑みつつ,調査方法を変更してオンラインでの面接調査やアンケート調査への切り替えるため,質問紙調査のための郵送費はネット環境の構築にかかる費用へと変更して支出する予定である。その他,収集したデータの分析に係る費用として支出予定である。なお,学会は今年度もオンラインでの実施となり,かつ昨年度の調査結果を発表することができないため,学会参加に必要とした経費の支出は縮減する見込みである。
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