わが国では、消費者基本法や消費者教育推進法が施行されており、消費者は自らの利益のために自立し自らの選択と行動が社会に与える影響を考慮して公正で持続可能な社会の確立に貢献し、消費者市民社会の形成に参画することが求められている。ところが近年、国民の医療消費者としての行動が問題視されている。定期検診も受けず日常の健康管理を怠り、疾病が重症化してから初めて受診して医療費の高額化を招いて国民医療費を膨張させたり、軽度な疾病でも大病院を受診して重症患者の治療を阻害するなどの実態が指摘されている。これらの行動が公的医療保険制度の財政破綻を懸念する事態を招く一因になり、高度に専門的な技術を有する医師を疲弊させていると言われる。 消費者教育は消費者を悪徳商法から守ることばかりを対象とするのではなく、個々の消費者が適切な健康管理や検診・受診を行うことで国民全員の医療サービスを保障している公的医療保険制度を存続させる行動も対象とすることが不可欠であるといえる。 本研究においては、公的医療保険制度、プライマリ・ケア、保健学、公衆衛生学、セルフメディケーションなどの国内外の資料やデータを収集・分析し、21世紀の国民健康づくり運動「健康日本21」の報告書の分析を行った。また、国や協力の得られた自治体の医療行政や保健活動、医療関連データから一般住民の医療行動を分析し、わが国ではまだ遅れているプライマリ・ケアの必要性、2020年から制度化した総合診療専門医の活動の実態について検討した。さらに、2020年からまん延している新型コロナウィルスによる保健や医療への影響と医療消費者の行動変容について検討したうえで、今後の消費者市民社会を実現する医療消費者のための消費者教育について考察した。
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