研究課題/領域番号 |
17K00757
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
森田 美佐 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (20403868)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 女性活躍 / ジェンダー平等 / 家族的責任 / 仕事 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、働く女性のみならず、男性も子どもも“幸せ”になる職場の女性活躍は、どうすれば実現するのかを、個人と家族の生活の質向上を目指す家政学とジェンダーの視点から、明らかにすることである。 女性活躍をめぐる先行研究では、女性の離職率の低下、女性の仕事と家庭の両立を可能にする働き方の改革、女性管理職の登用等は、企業の組織の活性化はもちろん、生産性の向上などに利点があることが指摘されている。その結果、実際にそのような施策を打ち出し、女性を積極的に採用・登用する企業も増加している。研究としても、女性がキャリア形成に意欲的になれる雇用管理の在り方や、女性が昇進を望むような職場環境づくりに何が必要か等に関心をもつものが散見される。 しかし日本の働く男女の意識や行動を見る限り、職場における女性活躍推進の数々の施策は、女性の労働者としての人権や、職業生活と家庭生活の充実を保障する環境づくりに向っているとは言い難い。加えて男性も、仕事のみならず、家庭や地域の中で活躍できる環境が形成されているのかどうか、疑問が残る。働く女性も男性も、ワークライフバランスの重要性を指摘されながらも、実際は、「仕事を取るか、家庭生活を取るか」の二者択一の状況の中で生活を営んでいると言わざるをえない。家庭生活を重視する労働者が、労働市場では周縁的な位置づけに留まる社会とは、家庭責任を重視すれば、男女が〝平等”に労働市場の中で二流の労働者として扱われる社会に過ぎないのではないか。これは職場と家庭の男女共同参画の実現、男女労働者の人間らしい働き方と暮らし、そして子どもが親のケアを受ける権利を保障しない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、おおむね順調に遂行されていると言える。その理由は以下の通り。 第1に、先行研究のレビューを行っている点である。本研究では、まず女性の活躍に関する社会科学系の業績から論点整理を行った。その中では、近年、働く女性の労働意欲が高まっており、子どもをもって働く母親が増えていることが示されていた。しかしながら、昇進意欲に関しては、責任が重いこと、仕事と家庭の両立が一層困難になる等の理由から、(昇進の)意思をもたない女性が多いことも明らかになっている。この背景には、男女が就く仕事(若年期のキャリア形成)の内容にも格差があることが指摘されていた。 第2に、実際に当事者に調査を行ったことである。本研究では、雇用されて働く男女に対する全国調査を行っている。その結果、上述した先行研究の通り、確かに働く女性の就労意欲は高まっているが、それは年齢、雇用形態やライフステージによって変容することもうかがえた。さらに、男性に対して調査を行った結果、一般的に女性が職場で活躍することには賛同するものの、実際に自分の配偶者がそのような働き方をすることに対しては、彼らは必ずしも同じ意見をもっていなかった。そして男性の家事や育児への参画は、共働き世帯を前提とした場合、十分であるとは言えないこともうかがえた。男性が、女性の活躍に対して積極的な意識をもっていることは分かったが、そのためには、男性側も、家庭や地域で“活躍”することが必要不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方向性は以下2点である。 第1に、男女にかかわらず、働く者の職業生活と個人・家庭生活の質がどのようになれば、女性は職業人としての成長を考えられるのか、そして男性は、女性の職業人としての成長に賛同し、家庭にも参画するようになるのかを調査していくことである。具体的には、彼女たちの職業人としての成長意欲を左右するのは、職業生活の質なのか、個人・家庭生活の質なのか、またそれは、ライフイベントによってどのように変わっていくのかを明確にする。 第2に、働く男女を調査し、女性が就業し、組織の中で裁量や権限をもつだけでなく、男女労働者の人間らしい働き方と暮らし、子どもが親のケアを受ける権利の保障に向けて、他者に働きかけ、職場を変革する主体となるにはどうしたらよいのに取り組みたい。またそのような変革に賛同する男性がどのようにすれば増えるのかにも取り組みたい。 女性の就業率が上昇し、子どもをもって働く女性が増え、管理職に就く女性の比率が上昇することは、確かに就業における女性の地位向上はもちろん、日本の経済効果にもつながるであろう。しかし重要なことは、そのような変化は、ジェンダー平等の為の“目に見える手段”であり、生活者が求めるジェンダー平等社会の目標とイコールではないだろう。ジェンダー平等社会が求めることは、男女が共にdecent work を獲得することと、家庭責任を共に分かち合い、身体的にも経済的・社会的にもより良い生活を営むことである。
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