取得が母親に偏る日本の育児休業制度の問題点と解決策を明らかにする目的から、現在の育休制度が母親と子どもに与える影響を中心に検討し、大学紀要に3回にわたって成果を発表してきたが、当該年度はそれまでの研究の総まとめを行った。 成果は、共著『女性の生きづらさとジェンダー』の中の第6章「育児休業の光と影」にまとめた。第1節では「日本の育児休業制度の概要」として、国連の「女性差別撤廃条約」の批准に向けた法律整備のが急がれる中、短期間に取得者にとって”手厚い”制度として整備されてきた経過に触れた。第2節では、「制度の評価と問題点」として、男女の取得率のギャップ、長期的に見た母親の就労支援効果は十分とは言えないこと、待機児童対策として機能している実態などについて数値を挙げながら示すとともに、旧来の「母親育児の推奨」という隠れたメッセージの発信となっている側面を指摘した。第3節では、「子どもにとっての育児休業制度」を吟味し、「育休退園訴訟」が提起した問題を子どもの立場から検討すべきことや、本制度の普及によって保育所入園時期が遅くなっている現実が、受けれ側の負担を増している点について、1967年以来の保育士配置基準の改善が求められるとした。第4節では「親と子をともに応援する制度に」として、1)取得の長期化推奨を前提としない、2)「正規雇用の母親にとってだけの制度」にしない、3)休業を取る(「1」)、取らない(「0」)の2分的選択にしない柔軟な制度にと提案した。そして、4)少子化社会の子どものたちに安定した育ちの場をどう保証するかの議論と研究の必要性を指摘した。 この著作で、母親論(8章)、保育・保育者論(7章・9章)の執筆者とも連携を取りながら最終稿をまとめた結果、ジェンダーという視点を軸に、育児休業制度の抱える課題を子どもの発達という点から捉えなおす必要性を示したことが特徴となっている。
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