研究課題/領域番号 |
17K00784
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山岸 雅子 金沢大学, 人間科学系, 教授 (00239873)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地域連携 / 多世代共生 / 輪島KSBULET / 生涯活躍のまち |
研究実績の概要 |
高齢期居住には近隣との交流や地域からの日常的支援が重要であるが、地域連携・協働の多世代共生コミュニティ構築と維持には困難が指摘される。本研究は成功先進事例として知られる社会福祉法人佛子園開設運営の「シェア金沢」及び、平成30年4月に開設された佛子園による地方創生施策「生涯活躍のまち」認定プロジェクト「輪島KABULET」を主な調査対象とし、生涯活躍のまち構想、まちづくりと連携したサービス付き高齢者向け住宅のあり方に示唆を得ようとしている。 令和元年度は「輪島KABULET」において、平成29年度、30年度調査の分析及び同様の調査を実施した。調査方法は拠点施設(温泉、そば処等)周辺地区の住民に対する悉皆ヒアリング調査である。 1.開設前後の調査結果の分析を行った。1年間で対象地区では単身世帯の増加は僅かであるが、3人世帯の減少と2人世帯の増加が大きく世帯規模の縮小がみられた。拠点施設の温泉の利用は65%、そば処の利用は56%、「輪島KABULET」企画運営イベントへの参加は40%である。「輪島KABULET」の取り組みに対しては93.7%が評価すると回答し、新たな交流や娯楽機会の提供が評価されている。「輪島KABULET」は徐々にイベントの企画運営を住民へ移行しサポートする立場になるべきと考えているが(施設長へのヒアリングより)、住民は開催されれば参加したいと考えている者が多いことなど、多世代コミュニティ構築の目標に認識の差が生じている。 2.平成30年度調査では対象世帯は197世帯であったが、令和2年度調査は167世帯となった。30世帯が空き家・空き地・駐車場化したことがわかり、世帯規模の縮小とともに、人口の減少の状況が把握できた。令和2元年度は106世帯から回答を得て現在集計・分析中である。サ高住住民に対して、予備的ヒアリング調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「輪島KABULET」については、開設半年前(平成29年度)、開設半年後(平成30年度)、開設1年半後(令和元年度)に、同地区を対象とした悉皆ヒアリング調査を実施できている。用意したヒアリング項目の内容だけでなく空き家化の変容を把握できた。アンケート調査ではなくヒアリング調査であることも、より地域住民の意識や地域の状況の把握が可能となっている。毎年同様の調査を実施していることが地区住民に認知されており、情報収集につながっていると思われる。 また、ヒアリング調査によりいくつかの課題が見いだされ、関連した予備的ヒアリング調査を実施している。毎年同時期に、ヒアリング技術やマインドの質を維持した調査補助員を10名程度確保して調査を実施することを含め、非常に時間と手間がかかるものの、ヒアリングによる地区の悉皆調査は非常に有効であるといえ、毎年同様の調査をすることにより、今後経年変化の把握及びその要因の分析ができるものと思われるため、おおむね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
「輪島KABULET」の調査により、以下のような検討課題を見出しつつある。これらについてさらに調査を実施し、多世代共生のまちづくりの構築・維持に向けた方策の検討を進める。 1.前述(研究概要)のように、多世代共生コミュニティの目標への期待に相違がある。 2.生涯活躍のまち施策では、移住者は地域住民が交流を通して地域に溶け込むことが重要であるが、移住者と地域住民は同じ場所やイベントに居る機会もあるが、特段両者間で交流が生まれていない。「輪島KABULET」の現状は表面的な交流にとどまっているといえる。令和元年度にサ高住居住者に対し事前調査を実施した。今後さらに調査を実施し、実質的な交流の促進に向けた方策の検討につなげたい。 3.令和元年度に空き店舗を活用したゲストハウスが開設された。施設型「生涯活躍のまち」の「シェア金沢」と異なり、「輪島KABULET」では中心市街地の空き家活用によるまちづくりを進めており、拠点施設とサ高住、ゲストハウスその他の施設が分散していることで、施設間の交流・相互活用には困難が伴う。ゲストハウスにおいて学生発案のイベントを開催したが、拠点施設周辺住民、サ高住居住者の参加や交流には至らなかった。輪島市商工会による無料電動カートが拠点施設を通ることになったが、地区住民の利用者はほとんどいない。全体としてさまざまな工夫がされているものの、期待される交流につながっていない状況である。輪島という土地柄の中で、人的、物的、サービス面で交流の促進と住民主体のまちづくり、地域連携を実質的に構築し維持していくための方策について、丁寧な検討を続けたい。 「シェア金沢」については、サ高住居住者や周辺住民へのヒアリング調査を準備し、適切な時期に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、主に地区住民やサ高住居住者など高齢者への丁寧なヒアリングによる情報収集と分析が核となっている。しかし、令和元年度末からのコロナ感染症拡大により、調査の実施が非常に困難になっている。「シェア金沢」については、サ高住居住者や周辺住民へのヒアリング調査の時期を、調査補助者の確保の都合などから令和元年度2~3月に実施予定していたが、実施できなかった。さらに3月に予定していた先進事例への視察も実施できず、また集計作業も遅延している。 令和2年度の予定は、現状では調査実施時期の見通しをつけること、輪島では金沢からの来訪を好まないこと、高齢者は学生の来訪を好まないことなどから、「輪島KABULET」「シェア金沢」ともに、これまで通りの調査の実施は困難であると予想され、調査時期や方法の検討を行う。回収率、回答率が非常に低くなることが予想されるが、ヒアリング調査ではなく郵送アンケート調査(郵送配布・回収、あるいは戸別ポスト投函配布・郵送回収など)に替えることも含め検討する。
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