研究課題/領域番号 |
17K00785
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
児山 祥平 信州大学, 学術研究院繊維学系, 助教 (30777818)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | THzスペクトル / 繊維状試料 / 前処理方法 / 並列配置 / 偏光方向 / S/N比 / 獣毛繊維 |
研究実績の概要 |
平成30年度はTHzスペクトルを計測するための前処理方法による検証を実施した.ナイロンフィラメント繊維を凍結粉砕や約200μmで裁断した試料をポリエチレン粉末でペレット状に作製した試料のTHzスペクトルでは透過率が高くTHzスペクトルのS/N比が低い事が明らかになった.一方で,繊維を並列に配置するだけでの前処理方法ではTHzスペクトルのS/N比が改善され,5THz付近に吸収ピークが検出された.この吸収ピークは試料の設置間隔を大きくするほど減少したために,試料特有の吸収ピークである事が判明した.また,試料を設置した繊維軸方向と平行になるようにTHz光を偏光させたところ,吸収ピークがより明確になり更なるS/N比の改善に成功した.この計測方法にて繊維状試料でのTHzスペクトルが十分計測可能である事が示された. フィラメント繊維でのTHzスペクトルが可能になったため,フィラメント繊維の延伸に関する計測を実施した.同一のPET材料において延伸後の直径と未延伸時の直径がほぼ同一となるように各試料を溶融紡糸によって作製し,繊維を並列に配置された方向と平行または垂直方向のTHz偏光にてTHzスペクトルを計測したところ,延伸された試料では大きな変化が検出され,未延伸試料では変化が見られなかった.そのため,延伸の有無による分子構造変化に関する情報がTHzスペクトルから検出された. 一方,紡績糸では糸の直径のバラツキにより繊維状試料でのTHzスペクトルは困難であったため,凍結粉砕法で獣毛繊維のTHzスペクトル鑑別を検証した.比較対象として中赤外分光法では試料の漂白処理により分子構造変化が検出されたが,THz分光分析では凍結粉砕時の試料の形状による影響が糸試料の分子構造による影響よりも大きくなることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
THz分光分析での新たな繊維製品品質評価方法を提案する上で必須であった繊維状試料でのTHzスペクトル方法が平成30年度内に確立されたことからおおむね予定通りに進展している.さらに,延伸に関する情報を検出できる可能性を示せたため予想を上回るスピードで研究が進んでいる.これに伴い,繊維製品の鑑別方法に向けた更なる試料の準備期間および作成期間を確保できたことからもおおむね順調に進んでいると言える. その一方で,ナイロンフィラメント繊維の吸収ピークが5THzに出現していることを考慮すると,本学でのTHz分光分析装置の計測範囲外での信号であり広範囲での計測が可能な秋田大学でのTHz分光分析装置を使用しなければならないため,より緊密に連携を行い出張実験の回数の増加などの対応を行い,研究の進捗に遅れが出ない工夫が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,共同研究契約を締結している秋田大学と連携して研究を進めていく.THz波長帯におけるナイロンフィラメント繊維の特有の吸収ピークの計測に成功した事から,平成31年度では他の化学繊維についてのTHz吸収スペクトルの計測を実施する.各素材のTHz吸収スペクトルによりデータベースを構築し,繊維材料鑑別手法の検証を実施する.同時に中赤外分光光度計(FT-IR)での各試料の吸収スペクトルを計測し繊維材料鑑別評価を行い,これと比較したTHz分光分析での繊維材料鑑別の有意点または不利な点を明らかにした位置づけを行う. また,延伸の有無による試料において,THz光の偏光方向に対して繊維の軸方向を角度つけながら回転させてその都度THzスペクトルを計測することで,そのTHzスペクトル形状の変化から検証する.未延伸試料であれば分子配向が存在しないためTHzスペクトル形状に変化は見られないが,延伸試料では分子配向により角度に応じたTHzスペクトルに変化が見られると予測される. 一方で,フィラメント繊維である絹繊維に加え光ファイバーや炭素繊維等のTHzスペクトル計測を実施し,中赤外分光法では計測困難な試料でのTHzスペクトル計測が可能であるかを検証する.さらに,紡績糸である獣毛繊維の鑑別についても,THzスペクトルのS/N比がより改善される手法を検証する.これらに成功した際にはこれまで存在しない新たな評価方法として提案可能となる. 以上のように,最終年度では様々な材質の繊維試料のTHzスペクトルを実施し,計測が可能・不可の判定と共に計測可能であった場合にはその根拠や繊維製品の品質評価としての応用事例を提案することが最終目標であり,これに向けて推進していく.
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