研究課題/領域番号 |
17K00793
|
研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
澤島 智明 佐賀大学, 教育学部, 教授 (40404115)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 滞在場所選択 / 環境調節行為 / 伝統的住居 / 温熱環境 / 省エネルギー / 暖房 / 冷房 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
2019年度は、昨年度および一昨年度に引き続き、シミュレーション条件として検討すべき事項を整理するためのデータ取得を目的に、住宅居住者の滞在場所と温熱環境の関係についての実態調査を行った。佐賀県に建つ伝統的住宅1件を対象に居住者へのインタビューと行動記録、室温実測を組み合わせた調査を2週間×3季節行った。PMV測定を予定していた別の1件は調査世帯の都合により調査自体ができなかったため温熱環境4要素の測定はできなかった。 これまでに調査を実施した7件に今年度調査の1件を加えた8件について分析した。事例を加えることで、昨年度までに抽出した、季節による隣室間の建具の開閉状況の変更および暖冷房範囲の調節の特徴がより明確になった。すなわち、冬期は建具を閉め、暖房範囲を限定するのに対して、夏期は冷房時でも建具を開放して1台のエアコンでなるべく広い範囲を冷房しようとすること、そして、このような間仕切り方の季節変化に合わせて居住者の滞在場所や生活行為も変化することが本年度の対象住戸でも確認された。 当初計画では得られた知見を暖冷房負荷シミュレーションの設定条件に落とし込んでシミュレーションを行う予定であったが、申請者の多忙により、設定条件に対する十分な検討が出来ず、基本条件による試行を継続することにとどまった。 昨年度の研究成果を家政学会大会、家政学会九州支部大会で発表した。今年度の調査・分析結果は2020年度に家政学会、建築学会等で発表する予定である。また、分析は次年度も継続して行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、実態調査によりサンプル数を増やすことができたが、申請者の多忙により、暖冷房負荷シミュレーションの設定条件に対する十分な検討が出来なかった。また、昨年度同様、調査世帯の都合によりPMV計による温熱環境4要素の測定ができなかったことも、住宅モデルの作成を困難にした。土間、縁側、続き間といった空間的特徴を付加した住宅モデルの作成、住まい方のバリエーションの作成などは次年度以降の実施となる。一方、実態調査からは伝統的空間における居住者の滞在状況に関して昨年度までの試験を裏付ける結果が得られている。このように居住者の行動実態に関する調査は比較的順調に進んだが、伝統的空間の温熱環境の把握とそれに基づく暖冷房負荷シミュレーションが遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度はこれまでに得られた知見を暖冷房負荷シミュレーションの設定条件に落とし込んでシミュレーションを行う。また、PMV計設置の許可を得られる住戸があれば2019年度調査で実施できなかった温熱環境4要素の測定を実施し、追加調査を含む実態調査結果の分析を継続して行う。 基本となる住宅モデルに加えて、実態調査で得た伝統的住居の空間的特徴を付加した住宅モデル数種類を作成し、実態調査を反映した在室パターン、暖冷房パターン、換気回数等を組み合わせて暖冷房負荷を算出する。通風や放射、扇風機、こたつ・電気カーペットの使用などが滞在場所の選択と関係している場合は暖冷房開始温度の設定を変化させることでそれらの影響も加味する。 実態に基づく選択行動では冷暖房エネルギー削減効果が見られない場合は、現実から大きく乖離しない範囲で、行動パターンを変化させながらシミュレーションを繰り返し、建物バリエーションごとに効果的な選択行動を模索する。 総合的な考察を行い、実態調査の結果から、伝統的住居の空間的特徴が選択行動を促進させるという仮説を検証する。また、熱負荷シミュレーションでその行動の暖冷房エネルギー削減効果を検証する。それらを合わせて、日本の伝統的住居が持つ空間的特徴の省エネルギー性を「選択行動のしやすさ」や「滞在場所の選択肢の多様性」等の視点から評価する。また、その特長を活かした住まい方についても省エネルギー効果を整理し、具体的な暖冷房エネルギー削減量とともに明示する。 適宜研究成果をまとめ、日本建築学会、日本家政学会等で発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は申請者の多忙により、シミュレーションが進まなかったため研究補助(シミュレーション実施など)のアルバイト使用がなかった。また、PMV測定予定住戸のキャンセルのため測定装置(ポータブルPMV計 AM-101)が未購入となった。2020年度は調査住戸の実態に合わせて測定装置を購入するとともに研究補助のアルバイトにより実態調査の分析とシミュレーションを進める予定である。
|