本課題では居住者の住宅内での滞在場所と温熱環境の関係について、日本の伝統的住居が持つ空間的な特徴に注目した検討を行った。 2017年度から2019年度の実態調査では、居住者の部屋の使用状況や生活行動の内容等に行動記録に現れるような大きな季節変化が少なかった。そのため住宅内に優位な温熱環境が形成されながら居住者に利用されていない事例や省エネルギー的な暖冷房が行われていない事例を抽出し、そのような温熱環境を活用もしくは改善する住まい方をした場合の暖冷房負荷削減効果を中心にシミュレーションを行った。縁側、続き間を持つ2階建て住宅と縁側、続き間、6畳の土間空間を持つ平屋建て住居の2モデルを作成し、暖冷房削減を意識した住まい方を在室・暖冷房・換気スケジュールなどに反映させて暖冷房負荷を算出した。2021年度には無断熱住宅で滞在場所選択の効果を確認した。 2022年度はモデルの断熱性能を旧省エネ基準レベルと現行基準レベルに変化させた。シミュレーションの結果、昨年度に無断熱住宅での暖冷房負荷削減効果が確認された住まい方(季節による滞在場所の変化)であっても旧省エネ基準レベルの住宅になると明確な削減効果がみられなくなることが明らかになった。滞在場所選択による暖冷房エネルギーの削減効果は築年数の古い既存住宅などで効果的であり、伝統的住居の熱的特性と住まい方が一体となって初めて意味を持つものであることが示唆された。伝統的住居での住まい方を現代住宅に応用することを暖冷房負荷によって評価することは難しいと推測され、今後の課題として残った。これらの成果は日本家政学会全国大会で発表する。またこれまでの研究成果は研究成果報告書にまとめるとともに適宜学会発表と学会論文への投稿を行う予定である。
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