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2018 年度 実施状況報告書

天然染料およびラッカーゼ酵素を用いる環境調和型羊毛染色

研究課題

研究課題/領域番号 17K00795
研究機関金城学院大学

研究代表者

長嶋 直子  金城学院大学, 生活環境学部, 准教授 (30459599)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード環境調和型染色 / 天然染料 / 酸化還元酵素 / ラッカーゼ / ヘマトキシリン / 羊毛 / 脱色 / 発色
研究実績の概要

本研究は酸化還元酵素の一つであるラッカーゼ(Lac)の色素の脱色・発色作用を天然染料染色に有効活用することを目的とする。平成30年度は、多くの水酸基を持ち明確なλmaxを示さない天然染料ヘマトキシリン(Hem)について、Lacの添加による発色挙動を詳細に調べ、金属媒染を用いずに濃色が得られる環境調和型羊毛染色の可能性を検討した。
まず、溶液における挙動を調べた。その結果、常温においてほとんど無色であったHemにLacを添加すると、可視吸収スペクトルは450 nm付近に極大吸収を示し、1分から2分になるとさらにピークは増大した。3分経つとそのピークは短波長にシフトし、さらに時間の経過とともに短波長ピークは減少した。その挙動は電子伝達物質メディエーター(PPT)を添加しても同じであった。Lacの至適温度に近い45℃ではより顕著になった。Hemはキノノイド構造を持たず共役系は短く、それ自身はほとんど無色である。しかし多くの水酸基を持つ。したがって、Lac添加によって、数分以内にフェノール性水酸基のオルトおよびパラ位にある‐OHを酸化し、キノノイド構造を形成させ発色したと思われる。しかしながら、形成されたキノノイド構造を持つ発色物質はLacによる酸化反応によって速やかに分解することもわかった。
そこで、Hem/Lac系を羊毛染色に応用した。その結果、Hem/LacおよびHem/Lac/PPTを調整直後、すぐに染色した場合には、K/S値はかなり大きい値を示した。しかし、調整後1時間経過した後に羊毛を添加し染色した場合には、K/S値は低下した。調整直後では発色物質が羊毛に速やかに吸着するが、時間経過とともに発色物質は分解するため、1時間後の染色ではK/S値が低下したものと推定される。450 nm付近の発色物質、さらに短波長側の分解物質については今後検討する必要があるものと思われる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究で用いたTrametes sp.由来の酸化還元酵素ラッカーゼは、複雑な化学構造を有する天然染料に対して、2つの作用、すなわち脱色および発色効果がある。
平成30年度は、発色効果について一定の成果が得られた。すなわち、溶液中でラッカーゼ添加によって発色効果がみられた天然色素ヘマトキシリンを用いて、羊毛を濃色に染色することができた。多価フェノールを有する天然染料ヘマトキシリンはラッカーゼによる酸化によって金属媒染剤を用いずに濃色に染めることができることが明らかとなった。

今後の研究の推進方策

天然染料の化学構造は多岐にわたっており、また用いたラッカーゼの基質特異性は顕著で、ラッカーゼ添加効果は非常に複雑である。そこで、最終年度は、ヘマトキシリン以外の多価フェノール系天然染料たとえばフラボノール系色素を対象に、ラッカーゼによる作用を中心に調べる。さらに、ヘマトキシリン/ラッカーゼ染色した羊毛布の消費性能評価を行う。
(1)平成30年度の成果を踏まえ、フラボン・フラボノール系の天然色素、ケルセチン、ルチン、バイカリンなどに対するラッカーゼ添加効果を検討し、羊毛染色を試みる。
(2)天然染料で染色した羊毛布帛のソーピング工程および水系洗濯を想定して、非イオンおよびアニオン界面活性剤共存下におけるラッカーゼによる天然染料の脱色または発色作用を調べ、ラッカーゼの酸化作用に及ぼすこれらの界面活性剤の阻害効果について検討する。
(3)天然染料の化学構造は多岐にわたっているにもかかわらず、発色系にアゾ基を含有するものは全く存在しないことが知られており、合成染料のように発がん性の懸念があるといわれている特定芳香族アミンを生成することはない。そのため最近では合成染料に代って古代から用いられている天然染料が安全性および持続可能性の観点から見直されている。草木染めの範ちゅうから脱却して工業化の方向も検討され、実用化に向けて期待されている。したがって、実用化において最も重要な消費科学性能として、ラッカーゼ処理羊毛布の染色堅ろう度、引張強度、KESによる風合い値などを測定し、実用化へのさらなる展開の可能性を検討する。

次年度使用額が生じた理由

(理由)ごくわずかであるが、平成30年度の当初使用計画額から次年度使用額が生じた理由としては、実験が円滑に進められるように試薬、機器の購入に努め、さらに節約を念頭に取り組んだ結果と思われる。
(使用計画)生じた次年度使用額は、平成31年度の研究計画に基づき、試薬、ガラス器具等の消耗品購入に充当し、成果を得るために有効に活用する。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] ヘマトキシリンに対するラッカーゼの効果2018

    • 著者名/発表者名
      長嶋直子、高岸徹
    • 雑誌名

      (独)日本学術振興会 繊維・高分子機能加工第120委員会 年次報告

      巻: 69 ページ: 47~50

  • [学会発表] ヘマトキシリンに対するラッカーゼの効果2018

    • 著者名/発表者名
      長嶋直子、高岸徹
    • 学会等名
      第55回染色化学討論会 主催:(一社)繊維学会染色研究委員会 (福井・福井大)
  • [学会発表] 染料に対するラッカーゼの作用2018

    • 著者名/発表者名
      長嶋直子
    • 学会等名
      第32回東海支部若手研究発表会 共催:(一社)日本繊維製品消費科学会東海支部、(一社)繊維学会東海支部、(一社)日本繊維機械学会東海支部 (愛知・金城学院大学)

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公開日: 2019-12-27  

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