最終年度は、多価フェノール系天然染料であるバイカリン、ルチンを対象に、ラッカーゼによる作用と羊毛に対する染色性を調べた。 その結果、60℃で溶解させ室温に戻したバイカリン水溶液(pH4.5)はラッカーゼ添加後すぐに450nm付近の吸光度が増加し、オレンジ色に近い茶色に発色した。これは、バイカリンの5-、6-位の水酸基がキノノイド構造に変化した可能性を示している。しかしながら、この水酸基は酸性条件下では解離しにくく、その傾向は6-位の方が大きい。したがって、ラッカーゼによって5-位の水酸基のみ酸化され、O=C二重結合となり、発色に寄与したものと推察される。 90℃で加熱溶解後、室温に戻したルチンの上澄み液(pH4.5)に対するラッカーゼ添加効果は、バイカリンと同様にラッカーゼ添加によって長波長側の吸光度が上昇し発色が確認できた。さらに、400nm付近で等吸収点を示し、ラッカーゼ添加によって、ルチンの構造とは異なる色素が溶液中に1種類生成されたことがわかった。ルチンに対するラッカーゼの作用は、水酸基を優先的に酸化し、キノノイド構造を形成させ、発色に寄与したものと推察される。 ラッカーゼで発色させたバイカリン、ルチン水溶液で羊毛を染色し、K/S値を求めた。その結果、バイカリン/ラッカーゼ染色布はバイカリン単独よりもK/S値が高く、濃色に染まったが、ルチン/ラッカーゼ染色布はほとんど染まらなかった。ラッカーゼで発色したバイカリン色素によって、媒染剤を用いずに濃色な染色が可能となることがわかった。
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