研究課題/領域番号 |
17K00796
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研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
村瀬 浩貴 共立女子大学, 家政学部, 教授 (60525509)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオミメティック / 綿 / コットン / セルロース / 微細構造 / 放射光 / SAXS |
研究実績の概要 |
綿の優れた機能に対する階層構造の寄与を明らかにし,綿のミクロフィブリルの螺旋配向構造を再現する新しい紡糸方法を開発することが本研究の目的である。そのために着想した方法は, FDM(Fused Deposition Modeling)型3Dプリンタの樹脂吐出機構を利用してミクロフィブリル含有繊維を得る方法である。2017年度は,3Dプリンタを用いて 2種類の樹脂製繊維を組み合わせた複合繊維を作製可能であることが確認できた。2018年度は,あらかじめ螺旋構造を内包させた樹脂複合フィラメントを自作し,それを用いて3Dプリンタを用いて繊維化を実施したが,螺旋構造は痕跡程度しか観察できなかった。2018年度は単に太めのフィラメントに細めのフィラメントを巻きつけるだけの単純な構造を用いたが,2019年度は細いフィラメントを複雑に組み合わせた組紐技術を応用した検討を実施した。複雑な内部構造を持つ繊維の作製には成功したが螺旋構造は痕跡程度しか実現できなかった。一方,2018年度に発見した綿の構造を模倣した同心円多層構造を持つ繊維の物性を調査する予定であったが3Dプリンタの故障により2019年度内の実施ができなかった。そこで2019年度は綿の微細構造の解析に注力した。大型放射光施設の強力なX線を用いて,1本の綿が乾燥する過程の構造変化を追跡した。綿の蒴果から採取した未乾燥綿を1本だけ用いて,乾燥する過程を1秒間隔で小角X線散乱および広角X線回折を観測し,乾燥過程で構造変化を観察することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は,組紐技術を応用した検討を実施した。組紐とは古くから日本で発展してきた技術であり,複数の糸を組み合わせて多様な構造を実現できる。今回,2種類の高分子の繊維を組み合わせて螺旋状の構造を持つ組紐を作製し,それを3Dプリンタ用フィラメントに変換した。この組紐フィラメントを3Dプリンタのノズルから吐出し,繊維を得た。この特殊複合紡糸繊維の内部構造を観察するために,繊維軸方向の連続切片の光学顕微鏡観察とDICOMビューワーソフトを用いて3次元再構築像を得た。表面付近は同心円状多層構造に似た構造を取り,内部は複雑な構造となっていたが,螺旋構造は痕跡程度しか実現できなかった。さらなる検討が必要である。一方,ノズル下での物理的なねじりの導入実験と,2018年度に発見した綿構造を模倣した同心円多層構造繊維の物性調査を2019年度に実施予定であったが,3Dプリンタが故障してしまい実施できなかった。年度内の修理を試みたが,米国製のため代理店とメーカーとの連携に時間がかかった上に,新型コロナウイルスの流行の影響でさらに修理が遅延して年度内の復旧が実施できなかった。2020年度に補助事業期間を延長して次年度に実施する。このような事情のため,組紐技術の検討以降は,綿の基本構造を理解するための研究に注力した。大型放射光施設の強力なX線を用いて,1本の綿が乾燥する過程の構造変化を追跡した。綿の蒴果から採取した未乾燥綿を1本だけ用いて,乾燥する過程を1秒間隔で小角X線散乱および広角X線回折を観測し,乾燥過程で構造変化を観察することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度にFDM型3Dプリンタを用いて直径数十μmの繊維を作製することに成功し,さらにポリ乳酸とポリエステルを原料とした繊維を複合化してFDM型3Dプリンタ用のフィラメントを作製する技術を構築した。2018年度は,FDM型3Dプリンタの原料フィラメントに螺旋構造をあらかじめ内包させ,それをノズルより吐出させることにより螺旋構造繊維が得られるか検証した。わずかな螺旋構造の痕跡は確認できたが,綿ほど明確な螺旋構造の実現には至らなかった。一方,綿の同心円状多層構造を模した構造の実現に成功した。 2019年度は,組紐構造を利用した検討を実施したが,螺旋構造は痕跡程度しか実現できなかった。当初の予定では,ノズル下での物理的なねじりの導入実験と,2018年度に発見した綿構造を模倣した同心円多層構造繊維の物性調査を実施予定であったが,3Dプリンタが故障してしまい実施できなかった。2020年度に期間を延長して,この部分の検討を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度に実施予定であったが,3Dプリンタが故障してしまい実施できなかった。年度内の修理を試みたが,米国製のため代理店とメーカーとの連携に時間がかかった上に,新型コロナウイルスの流行の影響でさらに修理が遅延して年度内の復旧が実施できなかった。2020年度に補助事業期間を延長して次年度に実施する。そのため,修理費85800円を2020年度に実行する。
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