研究課題/領域番号 |
17K00800
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
薬袋 奈美子 日本女子大学, 家政学部, 教授 (60359718)
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研究分担者 |
寺内 義典 国士舘大学, 理工学部, 教授 (00338295)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ボンエルフ / 生活道路 / 道路分類 / 滞留行為 / 生活道路マスタープラン / 路面アート |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでの調査内容を踏まえて日本での応用の可能性を探った。そのために、住宅地で実際に滞留を促す道環境(設え)を設ける社会実験を豊島区雑司が谷で実施した。2019年11月4日に、豊島区雑司が谷1丁目において、事前に募集した調査協力者及び来訪者に、通行止めではなく一般車両が通過する状態のまま、3M社の路面標示材(シート状)を用いて、路面装飾を施した。 実施にあたっては、対象地域内での歩行者・車両の地域内の主要動線の認識を住民にヒアリング等で確認した上で、交通安全・状況についての課題認識を住民ワークショップで確認、また交通調査も実施した。交通標識の調査等を経て、社会実験対象場所を決定した。通学路に指定をされている場所で、交通安全上課題が多いと地域住民が認識している場所を対象とすることにし、道の設えを変化させることにより、道に対する認識の変化を促すこととした。 協力者には、対象道路空間を通行後(徒歩・自転車・自動車)、印象及び総合評価、評価の理由記載を依頼した上で、一部、アンケート回答者にはヒアリング調査を実施した。質問した内容は、路面装飾に対する通行者の主観的心理、生活道路における生活行為に対する意識等であり、こういった内容を聞くことを通して、道で行われうる行為の可能性に対する認識の変化が起きることを期待した。 このような実験の結果、道路の端を歩くべき、道路で遊んではいけないという交通安全教育を長らく受けてきた日本人であっても、住宅地内の道の設えに工夫をすれば、考え方を変更することが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の前半の1年半で行った海外の調査等については、研究論文としての公表を行うことができた。イギリスにおけるホームゾーン整備地区での、滞留行為を容認する空間の管理については、地域のコミュニティ組織の形成が大きく寄与していることなどを、論文として公表することができた。また、デンマークの団地に設けられている道路内での滞留空間づくりについても、地域コミュニティでの合意形成が要となっていることがわかった。特に、この団地内での子供への道路の使い方教育がユニークであった。遊ぶ際には、コーンを道の真ん中の所定の場所に置くことで、通過交通の運転手には、行き止まりかのように見えつつも、緊急車両が通行できる幅員が確保されている仕掛けが導入されていた。コーンを移動させるのは、遊びたい子供自身が行うこととされ、公園のような安全性の確保された状態ではなく、車両が通過する可能性のある空間での子供の道使い教育が自然な形で行われていることが確かめられた。 3年目の本年度は、日本での応用に取り組む年であり、豊島区雑司が谷で社会実験を通して、道での滞留行為の許容できる程度を確認することができた。しかし、社会実験の準備には、警察署・道路管理者である区、そして地域との調整に想定していた以上の時間がかかり、成果をまとめるには至らなかった。またこの成果を用いた教育教材の検討への十分な時間を確保することができなかった。 2年目の調査で判明した国ごとの細やかなボンエルフルールの細やかな差異やその背景にある事情についてのさらなる検討については、実施することができていない。可能であれば研究成果の公表と追加調査を兼ねた海外渡航を検討していたが実現できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
3年目までの成果をもとに、住環境に対する考え方と、道路空間の使い方について検討、シティズンシップ教育という視点から行う予定である。教材を作成し、ウェブ上での教材配信や動画配信によって、教育関係者に配信する予定である。 先ずは、3年目に実施した社会実験から得られた地域住民の道の滞留行為に対する認識の変化等を踏まえ、安全に配慮しながらも、生活道路を生活空間として使うことを認められる人材育成に必要な要素を整理する。シティズンシップ教育の視点を深めるための海外での教育方法検討を継続的に行い、提供する教材の質を高める。このためにこれまでに集めてきた教材を改めて見直し、日本で導入可能な視点を検討する。 また、滞留行為を認めるボンエルフの制度が日本で本格的に導入するために必要な、ルール・制度については、より丁寧な調査が必要であることが判明したため、別途研究費を取得し調査を深める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外の会議で発表・意見交換し、海外事情の追加調査の予定であったが、予定していた会議に学務の都合等で参加が叶わなかったため。 海外での調査を継続して検討する予定であるが、新型コロナによる規制のために実施できない可能性がある。その場合は、海外の方へのウェブインタビューへの謝金、および国内での論文発表に変更する。
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