人体を用いた着衣熱抵抗の測定方法を検討する一連の実験で,人体は温熱環境や衣服の違いによって体表面からの放熱流を50[W/m2]のほぼ一定に保ちながら皮膚表面温度を変動させる定放熱サーマルマネキンのように振る舞うことがわかったため,人体の代わりに定放熱サーマルマネキンを用いて着衣熱抵抗と定温度サーマルマネキンでの着衣熱抵抗とを比較する研究を行った. 昨年度は,軽装から厚着まで5通りの男性用衣服組み合わせの着衣熱抵抗を,全身の全部位の表面温度を33℃一定に制御したサーマルマネキンと,各部位の表面からの放熱流を50[W/m2]に制御したサーマルマネキンとで測定・比較したが,各部位の表面温度や放熱流が全身均一という実際の人体ではほとんどない条件であったことを考え,本年度の実験では定温度と定放熱のそれぞれのサーマルマネキンの各部位の表面温度または放熱流を実際の人体と同じような分布のある設定とした.なお,サーマルマネキンの全身各部位の表面温度,放熱流の設定値は,同様な衣服組み合わせを着用したさせた男性被験者3名の体表面温度,放熱流の平均値とした. 「定温度制御」での着衣熱抵抗と「定放熱制御」での着衣熱抵抗から,両者の関係を表す1次式を導いた.この1次式によれば,「定温度制御」での着衣熱抵抗と「定放熱制御」での着衣熱抵抗を換算可能となると考えられる.導いた関係式に「定放熱制御」での着衣熱抵抗を代入して,「定温度制御」の換算着衣熱抵抗でもとめた.その結果,24℃条件では人体(≒定温度制御)が「定温度制御」よりも小さくなり,これまでに我々が人体を用いて求めた着衣熱抵抗が定温度制御サーマルマネキンで測定した着衣熱抵抗よりも小さくなるということを裏付ける結果が得られた.よって人体を用いて着衣熱抵抗を測定することに可能性があることを示すデータを得ることができた.
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