研究課題/領域番号 |
17K00809
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
大江 猛 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究主任 (10416315)
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研究分担者 |
吉村 由利香 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, .森之宮センター, 研究室長 (00416314)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 羊毛 / 着色 / 還元糖 / メイラード反応 / フェントン反応 / オソン類 |
研究実績の概要 |
前年度では、グルコースなどの還元糖を酸化することによって得られる糖酸化物を利用することによって、羊毛や牛革のようなタンパク質繊維の着色時間を従来の還元糖と比較して劇的に短縮することに成功した。さらに、羊毛の着色条件を詳細に検討することによって、2時間程度の反応時間で黒色に近い茶褐色に着色できる興味深い結果も得られた。しかしながら、新たな課題として、還元糖を酸化する際には、副生する塩酸によって溶液が強酸性になるため、羊毛タンパクの加水分解や変性が起こる可能が挙げられる。その結果、羊毛の優れた特徴である機械強度、吸湿性、はっ水性が着色後に影響を受ける可能性が高い。そこで、本年度の前半では、先程の羊毛を濃色で着色する条件でのこれらの繊維物性に対する影響について調べた。はじめに、機械強度への影響を調べたところ、予想に反して検討した反応時間において機械強度の低下はほとんど認められなかった。通常のメイラード反応と同様に、タンパク質のアミノ基や水酸基の間で架橋反応が進行したと推測できる。次に、着色後の羊毛のはっ水性と吸湿性について調べた。はっ水性に関しては、着色時間とともに減少したが、濃色に着色させた羊毛でもはっ水性を維持する結果が得られた。同様に、着色による吸湿性への影響が無いことも確認することができた。結果として、副生した酸による加熱による羊毛繊維の表面および中心部へのダメージは小さいことが明らかとなった。研究の後半では、還元糖以外の化合物として、トレハロースなどの非還元糖やキシロトールやグリシトールなどの糖アルコールを用いて着色実験を行った。興味深いことに、環状ポリオールであるイノシトールを用いた場合、劇的に着色濃度が大きくなる結果が得られた。この結果は、従来のクロム染料を用いた着色の代替技術となりうる可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、還元糖であるグルコースの酸化物で着色した羊毛の繊維物性について評価を行ったところ、羊毛の機械強度、吸湿性、はっ水性への影響が小さいことが確認することができた。この結果は、糖質の酸化物を利用した着色技術が、従来の染料を用いた着色の代替技術となりうる可能性を示している。さらに、炭素鎖長や水酸基の立体配置の異なる還元糖や糖アルコールを利用して、グルコースと同様の実験を行ったところ、炭素数6の環状のポリオールであるイノシトールを利用した場合、クロム染料に匹敵する黒色に羊毛を着色することができた。実用化に向けて、色移りや色落ちなどの染色堅ろう度の検討や、さらなる着色時間の短縮が必要となるが、科研費研究の本年度に予定していた目的を概ね達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下の3点を中心に研究を進める。はじめに、①グルコース酸化物で着色した羊毛の色落ちや色移りなどの染色堅ろう度について評価する。次に、②羊毛以外のタンパク質材料として皮革の着色について検討する。研究の初期段階では、耐熱性の高いクロムなめしを行った牛革の着色について調べる。この場合でも羊毛よりも耐熱温度が低いため、着色時の処理温度についても十分に検討する必要がある。これまでの研究結果から、還元糖による着色反応では、タンパク質のアミノ基間で色素を形成するため、結果としてタンパク質間の架橋効果(なめし効果)も期待できる。研究の後半では、なめし皮より耐熱温度の低い生皮を用いて、着色となめし効果の両方について検討する。①および②の研究が順調に進んだ場合、③着色効果の高い環状ポリオールであるイノシトールを用いた羊毛や皮革の着色実験を詳細に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度では、着色した羊毛布の物性評価の一つとして透気度の測定を計画していたが、装置の価格が当初の予定価格よりも高く、測定が可能な別の繊維物性(機械強度、はっ水性など)について研究を進めた。次年度では、透気度試験機(90万円程度)を購入して着色後の透気度への影響について調べる予定である。
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